橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

酒の肴

低温調理の豚モツ刺

飲食店で生の豚モツ刺しを提供するのが禁止されて二年が過ぎたが、これに代わって低温調理の「モツ刺」を提供する店が増えている。注文すると出てくるのは、おそらく摂氏七〇度くらいで長時間熱した、火は通っているものの、ほんのり桜色だったり、生のよう…

ファミレスのフォアグラ

ファミレスが、相次いでフォアグラをメニューに取り入れている。なかなか食べることのできない、そもそも日本では手に入れるのも難しい高級食材だが、ファミレスで食べるその味は? というわけで、近所の「ジョナサン」へ行ってきた。フォアグラが二枚載った…

稚鮎

この季節になると毎年作るのが、稚鮎を使った酒肴である。 まずは、素焼きに山葵をあしらい、上から醤油を掛け回したもの。もちろん養殖物だが、弱火で少し時間をかけて焼けば、すっきりした味に仕上がる。濃醇な酒がいい。これとは別に作ったのは、山椒煮。…

ノドグロの刺身

年末、しばらく石川県へ帰郷していた。市場へ行くと、美味しそうなノドグロ(正式な種名としてはアカムツ)がある。価格は大きさと鮮度によって、一〇〇グラム五〇〇円から八〇〇円。いまや、タイやヒラメをしのぐ高級魚だ。店の人に刺身になるかと尋ねたとこ…

新年会の前菜・鰤づくし

実家から、奥能登産の寒ブリを片身送ってきた。さっそく捌いて、新年会の前菜にする。 奥から順に、まず紅白の鰤膾・イタリア風。造り。鰤大根の大根。そして鰤切り身の岩海苔焼き。ワイン好きが多かったので、白ワインにも合うようにしてみた。

穴子と岩海苔のオーブン焼き

簡単に作れておいしいという、おすすめの酒肴である。 穴子は皮のぬめりを包丁で取り、三センチ幅くらいに切り、キャセロールに敷き詰める。ニンニク一かけを五ミリ角くらいに刻んで散らし、塩を振ってから岩海苔を載せる。そこにオリーブオイルをかけ回して…

ちりめん山椒

庭の山椒の木が、六年目にして初めて、たくさんの実をつけた。もとは、鳥が運んできた種が芽生えたものである。昨年はわずか数個だったが、今年は一〇〇個くらい。花粉は、虫が運んできたのだろうか。 実はまず、塩水でゆでてあく抜きをする。ちりめんじゃこ…

稚鮎のスモーク

最近、きわめて簡単な方法で燻製を造るようになった。 古びてこびりつきが気になるようになったフライパンと、これにぴったり合うガラスの蓋、そしてフライパンより少し小さく、底から二センチくらいのところでぴったり止まるような丸網を用意する。燻製にす…

レバ刺しを救え!

とんでもないニュースが入ってきた。 食中毒:生食用レバーの規制是非検討 厚労省審議会 焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件を受け、生食用牛肉の罰則付き衛生基準を検討する厚生労働省の審議会の初会合が28日開かれ、肉だけでなく、内臓…

レバ刺しを我らに

仕事のあと、大衆酒場好きなら誰でも知っている名店の支店へ。壁にあるこの貼り紙は、素晴らしい刺身で評判だったこの名店の、非情なる現実である。 何の問題もなく何十年もレバ刺しをはじめとする生肉を提供してきた名店の数々が、同じような状況にある。知…

久しぶりのレバ刺し

例の食中毒事件以来、レバ刺しなどのモツの刺身を出さなくなった店が多い。店の人に聞くと「手に入らなくなった」「保健所の指導で出せなくなった」などという。何十年もの間、大衆酒場の定番として何の問題もなく供されてきたモツ刺しが、危機に瀕している…

松茸と牛肉のホイル焼き

今年は松茸が豊作で安いというが、産地でもない場所に住む一般人に無縁のものであることには変わりがない。しかし、中国産がある。出回り始めた初期は、傷が多かったり土にまみれていたりして、失望することが多かったが、最近はかなり品質が上がってきた。 …

サーモンのジェノベーゼソース

ベランダのプランターに、バジルを植えている。バジルはトマトの料理やパスタソースに欠かせないが、香り成分が揮発性油なので、乾燥品では香味が決定的に欠ける。かといって、一度に使う量は少ないから、いちいちスーパーで買ってくるのも不経済だ。植えて…

池袋「ふくろ」の「稚鮎の串カツ」

今年は、どういう訳かスーパーで稚鮎を見かけることが多かった。好物なので、ずいぶん食べた。いちばん美味しいのは天ぷらで、これは「美味しんぼ」にも登場した。しかし技術がいるうえ、何しろ使う油の量が多く、あまり揚げ物をしない我が家としては非経済…

海の幸のトリュフソース

トリュフといえばフランス料理の高級食材で、そう簡単に口に入るものではない。ましてや自宅でとなると、色・形といい大きさといいトリュフチョコレートそっくりなものを、手を尽くし数千円も出して入手し、慎重に調理することになる。ところが一昨年ヨーロ…

トコブシのステーキ

昨年、近所に生活クラブ生協の小売店舗ができた。生活クラブはかつて、小売店舗は出さない主義だったはずだが、最近は店が増えている。もちろん組合員限定で、継続利用のためには会費(積立金)を払う必要がある。 いちばん期待していたのは有機・減農薬の農産…

かぶら寿し

金沢の冬の味覚だ。大きなかぶをスライスして、塩漬けにしたブリの切り身を挟み込み、麹で漬け込んだもの。繊細にして豊潤。ボディのある加賀の酒にも合うが、繊細さを生かすなら新潟や東北あたりの純米吟醸とも相性がいい。楽天で売っているのは、私の同級…

海の幸のサラダ・トリュフソース

日本人にあまりなじみのない食材のひとつが、トリュフだ。丸のままだと手に入りにくいし、高い。しかし瓶詰めのソースならさほど高くはないし、使いやすい。いちばん簡単で美味しく仕上がるのは、ホタテや白身魚をバターでソテーし、トリュフソースを加え、…

さば缶スペシャル

最近、近所の店で始めた料理が、これ。さばの水煮缶を開けた上に、ネギとバターを載せ、醤油をかけ回して、火にかける。全体がぐつぐつ煮えて、バターが溶けてネギに火が通ったところで、皿に載せて出す。不思議にうまい。もつ煮込みに通ずる、下手味の旨さ…

秋刀魚の造り

秋刀魚が出始めている。この時期の秋刀魚は脂の乗り方が控えめで、塩焼きでは物足りないが、刺身にはうってつけである。薬味には生姜が最適だが、今回はちょっと一工夫してみた。まず、切り方は拍子木とする。身が柔らかい魚なので、薄く切ると歯ごたえがな…

アメーラトマト

近所のスーパーで、少し前から売っている。フルーツトマトの一種で、静岡産。静岡に住んだことのある人なら、この名前を見て思わず吹き出したかもしれない。静岡では、「〜だよ」「〜でしょ」というのを「〜らー」という。つまり「甘めぇらー」トマトという…

トビウオのなめろう

なめろうとは、ご存じの通り房総の郷土料理で、魚の身を叩いて味噌と生姜で味をつけ、さらに大葉、ネギ、ミョウガなどとまぜたもの。魚は青魚が基本だが、店によっては残り物をいろいろ加えることもあり、私がときどき行く店では、イカを加えて粘りけを出し…

金目鯛

金目鯛が、いちばん美味しい季節である。真鯛もそうだが、五月頃に産卵の季節を迎えるので、今がいちばん栄養を貯め込んで味がのっている。金目鯛は脂とゼラチンが多く、甘辛い濃いめの味付けに耐える力があり、また、そう味付けした方が美味しい。そのため…

ごまさんま

九州には、魚、それも主に鯖の刺身をゴマと醤油をあわせたタレに漬け込んだ料理があり、博多では「ごまさば」、佐賀や大分では「りゅうきゅう」という。今年は豊漁なのか、刺身で食べられる新鮮な秋刀魚が安く手に入るので、これを秋刀魚で作ってみた。ただ…

加賀れんこんの団子汁

加賀れんこんは、デンプン質が多く、粘りけが強いのが特徴。煮物や天ぷらにすると、噛んだとき、シャキシャキというよりもねっとりとした食感が先行する感じになる。この特徴を生かして、団子汁を作ることも多い。簡単なのに、手がかかった料理のようにみえ…

柿の白和え

すり鉢で白ごまを摺る。次に水切りした木綿豆腐をつぶして入れ、滑らかになるまで摺り、塩、醤油、味醂で味を調える。そこに拍子木に切った柿を入れて混ぜれば完成。さっと湯がいた椎茸の薄切りを加えれば、旨みが増す。柿は、そのまま食べるには堅いくらい…

油揚げ、ほうれん草と銀杏の煮びたし

というわけで、昨日、「まきたや」さんでいただいたものを参考に作ってみた料理。まず、昆布と鰹で出汁を取り、酒、醤油、塩で味を調える。ほうれん草はさっとゆでて切っておく。椎茸は薄切り、にんじんは千切り、油揚げは湯通ししてから細切りにする。銀杏…

サーモンと帆立のウイスキー風味

これは、アイラ島で覚えてきた料理。まず適当な大きさに切ったサーモンと帆立の貝柱をバターでソテーする。焦がさないようにした方が、仕上がりがきれい。今回は彩りを考えて、サヤインゲンをいっしょにソテーした。火が通ったところでアイレイモルト、でき…

アウグスティーナー・ブロイのヴァイス・ブルスト

ミュンヘンに着いた日の正午過ぎ、あるビアケラーに入って名物のヴァイス・ブルスト(白ソーセージ)を注文しようとしたところ、白ソーセージは正午までしか出さないとのこと。わずか15分ほどの差で食べ損ねた。そこで日を改め、今度は別の店で注文。場所は、…

エクルヴィスの造り

マンガ「美味しんぼ」は、近年ではすっかりマンネリ化してしまっているとはいうものの、料理に関心を持ち始めた院生時代は、いろいろ学ばせてもらった。その頃に出てきて、はじめて知った食材のひとつにエクルヴィス、つまりザリガニがある。日本では滅多に…