橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。記事の内容は原則として、執筆当時のもの。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

錦市場「元蔵」

 堺町通から東へ進んで、柳馬場通を渡ったところにあるのが「元蔵」。11時に開店して夜10時まで営業しており、年中無休。昼酒を飲む地元客でいつも賑わっている。メニューには麩の田楽や漬物の盛り合わせなど京都らしいものもあるが、中心は串カツやおでん、唐揚げに牛すじ煮込みなど、ごく普通の大衆酒場風である。酒メニューが充実しており、長居しても飽きることがない。とくに日本酒は京都産を十種類ほど揃えていて、季節によっては限定酒なども出してくれる。錦で腰を据えて飲むなら、この店が本命だろう。

錦市場の大衆酒場「元蔵」

錦市場と「錦平野」

錦市場の卵焼きとおばんざいの店「錦平野」
 祇園祭の山鉾巡行は昼過ぎに終わってしまうから、見学した後は明るいうちから飲むということになる。これに最適なのは、錦市場である。錦市場には観光客相手のものを含め、昼から飲める店が多い。三基の神輿のひとつである西御座の担い手の中心は錦市場青年部だから、ここで飲食すれば、祭を支援することにもなる。錦市場は四条通のすぐ北を東西に、高倉通から寺町通まで約390メートルの間に、120店舗以上が軒を連ねている。  最初に紹介したいのは、高倉通から錦市場に入り、堺町通を過ぎたところの南側にある「錦平野」。卵焼きと惣菜の店だが、奥に広い飲食スペースがあり、その一部がイートインコーナーになっている。飲食スペースの大部分ではご飯のついた定食を供しているが、どれにも美味しいおばんざいの盛り合わせがついているから、こちらに座った方がゆっくり楽しめるだろう。朝8:30開店で、少し遅めの朝食に重宝するが、ビール、日本酒、酎ハイ、ハイボールなど、種類は少ないものの酒もひととおり揃っている。10:30から11:00まで一時閉店するが、そのあとは16:30まで通しで営業しているから、ゆっくり飲むことができる。
西御座を担う錦市場の面々 2022年撮影

祇園祭とビアホール「ミュンヘン」

 いよいよ京都は祇園祭の季節である。各種の祭事は7月1日から始まるが、観光客にとってのメイン・イベントは、何といっても山鉾巡行だろう。山鉾巡行は、前祭と後祭に分かれる。前祭は7月17日に行なわれ、高さ25メートル、重量12トン近くにもなる長刀鉾を先頭に、23基の山鉾が午前9時に四条烏丸付近を出発し、四条河原町、河原町御池、烏丸御池と反時計回りに進み、すべて終了するのは午後2時ごろとなる。後祭は7月24日で、牛若丸と弁慶が五条大橋の上で戦ったという故事をモチーフとした橋弁慶山を先頭に、11基の山鉾が午前9時半に烏丸御池付近を出発し、前祭とは逆に河原町御池、四条河原町、四条烏丸と時計回りに進み、すべて終了するのは午後1時ごろとなる。
 祇園祭を見に行くとして、よそ者の酒飲みにとって気になるのは、昼過ぎに終わってしまう山鉾巡行のあと、気軽に飲みに行ける店があるのかということだろう。このところ毎年、祇園祭を見に行っては飲み歩いているので、少し紹介していくことにしたい。あくまでも東京に住む京都初心者のことだから、絶品料理のある穴場などというものは紹介できないが、多少の参考にはなるだろう。
 まず紹介したいのは、老舗ビヤホールの「ミュンヘン」。四条河原町交差点の鴨川よりを少し北に進んで1本目の路地を鴨川方向に入ったところにある。ビールはアサヒだが、スーパードライではなく、「マルエフ」と呼ばれる昔からの生ビールを出すので、ビール通にも文句はないだろう。一人客におすすめなのは、入り口横の「スタンド」という一角で、平日の昼間限定で提供される「ちょい飲みセット」。小グラスに小皿料理2品がついて1250円とお得。最初にこれを注文し、次のビールに進むのが私の定番である。ただし祇園祭期間中はこのセットがお休みとなるうえ、店は大変な混雑になる。写真は5年ほど前のもの。

京都の老舗ビヤホール「ミュンヘン」

京都「京都醸造タップルーム」


 次のブルワリーは、京都駅の南、九条と十条の間にある「京都醸造」。近鉄線や市営地下鉄の十条駅からも行けるが、かなり歩くのでバスを使った方がいい。営業は金土日の週3日。もともとは1階タップルームと2階フロアで飲食できたらしいが、コロナ禍のため中止し、タップルームで買ったビールを屋外のテーブルで飲むというスタイルになっている。ビールの種類が多く、この日は9つのタップに樽がつながっていた。ベルギースタイルが得意のようで4種類、他にもアメリカンIPA、ピルスナーなど。いずれもスタイルの真ん中をいく、鮮やかな味わいのビールだった。
 3月4日現在は持ち帰りのみだが、3月12日から営業を再開するとのこと。(2020.12.12)

京都府京都市南区西九条高畠町25-1
https://kyotobrewing.com
[3月12日以降の営業予定]
金:17:00~20:30 (LO 20:00)
土日:12:00~18:00(LO 17:30)

京都「ウッドミルブルワリー」


 こちらは京都市中心街の北端、同志社の近くにある「ウッドミルブルワリー」。ガレージの奥に作業場、さらに奥に醸造所があり、土曜と日曜のみ、作業場に椅子とテーブルを出してタップルームを開店している。この日のラインナップは、エールが三種類と、ベトナム産ハーブを使った「スアンエール」。私はアメリカンスタイルの「和らぎIPA」をいただいたが、その名の通りIPAにしては苦みが控えめで、香りが良くスムーズな味わいだった。
 現在は緊急事態宣言下のため、商品販売のみとのこと。行く場合は、ホームページで確認を。(2020.12.12)

京都府京都市上京区 上立売通小川東入上る挽木町528番地
土日 11:00~16:00
woodmill-brewery.kyoto

京都「スプリングバレー京都」


 11月から12月にかけて1ヶ月間、形式的に立命館大学に籍を置き、2021年度に実施する大規模調査のための下見と資料収集のため、京都市に滞在した。当然、あちこちの居酒屋等にも行ってきたので、しばらくはそのときのことを書こうと思う。
 京都のクラフトビールといえば、黄桜、キンシ正宗という2つの大手日本酒メーカーが、かなり以前から製造を開始していたが、これに続く動きは少なかった。しかし近年、マイクロブルワリーが次々にオープンして、活発な動きを見せている。
 まずは大手のキリン系列から。キリンビールは「スプリングバレー」というブランドでクラフトビール事業を展開しているが、2017年に新たに開店したのが、「スプリングバレー京都」。錦市場の近くにある築100年にもなるという町家を改築して、ブルワリーとレストランを併設している。ビールのスタイルは多様だが、10種類の飲み比べセットがあるから、まずはこちらを注文するといい。大手の手がけるクラフトビールだけに、驚きは少ないがどれも質が高い。レストランメニューも充実している。(2020.12.1)

京都府京都市中京区 富小路通587−2
11:30~20:00 水休

所沢「百味」が復活

昨年5月、所沢随一の大衆酒場「百味」が、コロナ禍で閉店したという記事を書いた。ところがその後、閉店を惜しむ声に押され、別経営者で復活開店したとのこと。内装はもちろん、メニューも価格もほぼ同じで、照明や会計システムなどは新しくしたとのこと。このご時世ではあるけれど、行ってみたい。ご教示いただいたmitutataさん、ありがとうございました。
syupo.com

「やきとんひなた」が営業再開

f:id:classingkenji:20200519170426j:plain
 暗い話題が多い東京の居酒屋業界だが、営業再開の動きもでてきた。この日は、「やきとんひなた」が全13店中7店で営業を再開。このうち池袋東口店は14:00~20:00の営業とのことで、16:00過ぎに行ってみた。
 料理のメニューは減らしている。この店のメニューは、もつ焼きもつ煮込みをメインに、鮮魚とイタリアンを加味したところに特徴があるが、鮮魚とイタリアンは封印。だからもつを中心とした普通の居酒屋メニューとなっている。酒のメニューはほぼ変わらないが、限定日本酒のメニューはなかった。生ビールは、開けたてだろうから、たいへん美味しかった。もつ煮込みともつ焼きは、相変わらずの味。
 テーブルの数を減らし、入り口は開け放したまま。店頭にはテイクアウトの品がずらり。ただし、客は少ない。1時間ほどいたけれど、私を含めて5人だけ。5時半過ぎくらいには、客が増えただろうか。
 これから少しずつ、店を開けるところが増えてくるだろう。楽しみ半分、応援半分で、できるだけ行くようにしよう。(2020.5.19)

所沢の「百味」が閉店

f:id:classingkenji:20200518125844j:plain
 あるいは今年は、戦後居酒屋文化の曲がり角となるかもしれない。あちこちから、老舗酒場が閉店したという知らせが舞い込んでくる。
 そして数日前、所沢の「百味」が閉店したという知らせが舞い込んできた。社長は以前から体調が悪く、後継者もいなかったとのことだが、コロナウイルス禍がとどめとなったようだ。キャンパスも閉鎖されているし、所沢にはもう2ヶ月も足を運んでいないから、様子を見に行くこともないうちに。無念だ。(2020.5.18)

2020年の立春朝搾り

f:id:classingkenji:20200317111340j:plain
 原稿に追われていて、ずいぶん更新していなかった。新年のご挨拶もせずにいて、申し訳ありません。といいつつ、だいぶ前の話題である。
 六軒の酒販店と二軒のネットショップで買い集めた、今年の立春朝搾り。左から、千代の亀、鳴門鯛、司牡丹、梅錦、五橋、天覧山、開華、仙禽、賀茂泉、甲子、白馬錦、多満自慢。特に印象に残ったのは、安定感抜群の梅錦、目の覚めるような香りの五橋、先駆者らしい貫禄の開華。
 ワンパターンでアピール力のないラベル、元号を使う国際センスのなさは相変わらずだが、少し値段を上げたとはいえコストパフォーマンスが高いところもあいかわらず。ボージョレーヌーボーと違って、事前に瓶詰めしておくわけにもいかないから輸出は難しいかもしれないが、海外に空輸して三日遅れくらいで提供することはできないか。ラベルのデザインさえ変えれば、その価値のある酒だと思う。(2020.3.17)