橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

銀座周辺

有楽町「登運とん」

思い立って、久しぶりに入ってみた。有楽町から日比谷へ抜けるガード下の名店だ。一九五三年創業という老舗で、もつ焼きともつ煮込みがメイン。このあたりのガードは昌平橋に次いで古い一九一〇年に完成したもので、曲率半径の大きいゆったりしたアーチが実…

消えた「樽平」

今日は銀座へ。銀座ライオンの銀座七丁目店で飲んだあと、久しぶりに寄ってみようと金春通りから路地に入る。唖然としてしまった。「樽平」が閉店している。東京の宝ともいうべき名店。一九三一年創業で、この場所に移ったのは一九五二年のこと。戦火を生き…

復活した銀座五丁目の「ライオン」

札幌銀座ビルの建て替えで閉店していた銀座五丁目のライオンが復活した。まずは地下二階のビヤホールへ。木をベースにした、ちょっとチェコ風のインテリアで、円形の照明が洒落ている。鯖のマリネとローストビーフで、エーデルピルスをいただく。ここだけで…

八丁堀「maru」

この日は、ワイン仲間の会で、八丁堀のこの店へ。一階がリカーショップ宮田屋という酒屋で、その奥には立ち飲みコーナー。そして二階と三階がワインバーになっている。今日入ったのは、二階。 壁面と冷蔵庫にずらりと並んだワインを品定めして注文できる仕組…

「銀座ライオン 銀座七丁目店」

この日は、ふと思い立って、国立競技場跡地へ行ってみる。工事現場は多くが囲われているものの、運搬用の出入り口や、囲いが低い場所もあり、かなりの程度に見渡せる。荒涼たる風景。整地はまだまだ進まない。整地にすらこれほど時間がかかるのでは、あれほ…

「じゃのめ」

日本酒ブームといっていいだろう。入りやすい、比較的安価な名酒居酒屋が増えている。ここも、そのひとつで、オープンして一年半ほどになる。私は今日が初めて。 日本酒は半合グラスで四八〇円均一。均一価格だから、辛口本醸造など、ものによっては割高。日…

さよならニユートーキヨー数寄屋橋本店

この日、「若手の夜明け」のあとは銀座へ。ニユートーキヨー数寄屋橋本店が今日限りで閉店するというので、駆けつけたのである。超満員で入れないかと思ったが、運良く客の切れ目にあたったらしく、待つこともなく入ることができた。 この店は、三〇歳前後の…

「銀座ライオン 銀座七丁目店」

この日は、ふと思い立って、池袋から銀座まで歩くことにする。コースは、グリーン大通りから護国寺の前に出て、坂を下って江戸川橋を渡り、その先から早稲田通りに入り神楽坂を通って九段に到り、千鳥ヶ淵、半蔵濠、桜田堀から銀座へ。赤い色で国会を包囲す…

「銀座ライオン 銀座七丁目店」

銀座の松坂屋が建て替え工事中である。このため、狭い通りを挟んだ向こう側の、銀座ライオン銀座七丁目ビルの側面がよく見える。一九三四年竣工、菅原栄蔵設計の名建築だが、普段はほぼ正面しかみることがない。こうしてみると、六階の会議室部分に細かい装…

八重洲「八吉酒場」

京都と仙台からのお客さんを連れて、東京駅近辺でどこかに入ろうと思ったのだが、このあたりは土曜も休みの店が多い。いろいろ物色したあげくに入ったのが、最近できたというこの店。店の前にメニューが貼り出されているのだが、魚料理中心のラインナップで…

『樽平』の常連だった黒澤明

黒澤明の優れた評伝として定評のあるのが、堀川弘通の『評伝 黒澤明』である。この中に、気になる一節があった。 戦前の新米監督時代、黒澤は助監督の堀川らを誘って、よく酒を飲みにいった。一九四〇年頃の話である。そして堀川によると、「渋谷では『多こ…

丸の内「東京うりずん」

今日は、英国からのお客さんとこの店へ。日本には年に何回か来る人で、日本料理はひととおり食べているはずだが、沖縄料理は食べたことがないということで、この店にした。 本店は那覇にある人気店。メニューは豊富で、パパヤーイリチ、ミヌダル、中身の吸い…

八重洲「天海」

というわけで、二次会はこの店。静岡大学に勤めていた頃は、毎月曜日の夜の新幹線で通っていたので、終電の時間まで八重洲近辺で飲むのが習慣になっていたが、最近このあたりで飲むことはめったにない。超高層が続々と立ち、駅前はずいぶん変わったが、飲み…

社食でホッピー

今日は、日本生産性本部が企画する「企業文化研究会」で、居酒屋に関する講演を頼まれて丸の内へ。会場はJXホールディングスの会議室。一時間ばかり、格差拡大とともに起こってきた人々の飲酒行動の変化、石川栄耀の盛り場論や磯村英一の第三空間論を引き…

「銀座ライオン 銀座七丁目店」でビール初め

元旦は、まず佃島の住吉神社へ行き、信心がないので初詣ではなく初詣風景の見物をした後、タクシーで銀座へ。一階のビヤホールは、ほぼ八割程度の入りで、しばらくするとほぼ満員になった。ご覧の通り和服を着ていったが、同じような和服姿は数名程度。銀座…

「はせがわ酒店 グランスタ店」

今日は、本郷で研究会の後、京都からのお客さんを連れて近くの「加賀屋本店」へ行き、東京駅へ送るついでにここに立ち寄る。最初は混でいて入れなかったが、五分ほど近くを歩いて戻ったら、ちょうど席が空いた。 まずいただいたのは、磯自慢飲み比べセット一…

有楽町「銀楽」

二軒目を求めて、有楽町の丸三横丁へ。「銀楽」を外からちょっと覗いてみたら、あの高齢女性と中年男性の親子の姿がなく、別の中年男が店をやっている。気になって、入ってみた。以前は注文しなくてもデフォルトの串焼きがでてくる店だったが、今は注文に応…

「みちのく」

研究会のあと、京都からのお客さんを連れて銀座「三州屋」へ。しばらく飲んで食べて、有楽町の駅までお見送りしたあと、この店へ。 名前の通り東北料理が売り物の店で、青森の生姜味噌おでん、宮城のはっと汁、福島の鰊山椒漬、岩手の若布かき揚げ、山形の玉…

有楽町「南部家」

震災の被害の大きかった岩手・宮城・福島関係の居酒屋を探している。東北では山形・秋田・青森関係の居酒屋はけっこう多いのだが、岩手・宮城・福島関係は少ない。しかも、恵比寿の「いはとーぶ」、四谷の「會津やまっちゃん」は、震災の影響で閉店してしま…

有楽町のガード下・今昔

新橋のあとは、有楽町のガード下。入ったのは「とん登運」である。ドイツ人夫はたいへん気に入って、はしゃいでいた。あとで聞いた話では、「これからは日本で居酒屋へ行くときはケンジの案内じゃないといやだ」と言ってたとか。 このあたりの様子は、二十数…

「卯波」と鈴木真砂女

川本三郎の新著を読んでいて、銀座の居酒屋「卯波」のことを思い出した。かつて銀座一丁目の細い路地にあった居酒屋で、俳人の鈴木真砂女さんが営んでいた。九〇歳を超えるまで店に立ち続けていたはずである。和風シュウマイと鰯の叩き揚げが名物で、客には…

銀座「坐来」

今日は出版社との打ち合せで、銀座へ。外堀通りに面したビルの八階にあるこの店は、大分の郷土料理の店。大分県が経営するアンテナショップも兼ねており、エレベーターを降りたところのホールには、地元産品やガイドブックなどが並んでいる。 郷土料理店とい…

銀座「樽平」の冷や汁

浜松町から、銀座へ移動する。久しぶりに「樽平」へ行ってみることにした。 平日だからなおさらだが、サラリーマンが多い。この暑さだから、冷酒を二種類ほどいただく。肴は、たいがい注文することにしている漬け物の盛り合わせ、そして米沢料理という「冷や…

木挽町「楓」

ビールでのどを潤したあとは、木挽町へ。目指すは、静岡料理が売り物のこの店である。 静岡料理というものが存在するかといえば少々あやしいが、他の地域にあまり見かけないユニークな料理はいくつかある。まず、静岡おでん。黒はんぺんはおでんのネタとして…

「魚匠 銀平」

今日は臨時収入が入ったので、ちょっと高めの店にでも、ということで、ビールのあとは銀座の裏通りで店を物色する。初めはイタリアンかスパニッシュでも、と探していたのだが、良さそうな店はどこも満員。店員には「今度は予約していらっしゃってください」…

「泡立つ青春」(マキノ正博監督・一九三四年)

創建当時の「ライオン銀座七丁目店」ビヤホールの姿を見ることのできる映画が、これである。大日本麦酒株式会社のPR映画だが、主に戦前期に活躍し、生涯に二六〇本以上もの作品を作り上げた名監督・マキノ正博(雅弘)がメガホンをとっている。 映画はまず、…

「銀座ライオン 銀座七丁目店」の稚鮎

このブログは、基本的に時系列で書いている。記録を確認したり、必要な場合には資料にあたったりしてから順番に書いていくので、記事は常に二〜三週間遅れになっている。しかし、これでは特別なイベントや季節メニューには間に合わない。今日は順序を変え、…

「銀座ライオン 銀座七丁目店」

今年の新年は、まず自宅で、金沢直送のかぶら鮨、鮴と胡桃の佃煮、膾、蒲鉾、伊達巻き、そして自家製の鴨治部煮などを肴に、「菊姫」のにごり酒をいただく。年賀状の返事を書き、しばらく休んだ後は、銀座へ。全国的には天気の悪い地域が多かったようだが、…

「テング酒場」銀座店

小雨の降る並木通りを新橋方向に歩きながら、二軒目をどこにするか考える。すると、向こうに見慣れない看板が。自動車道路の下の雑居ビル・銀座ナインの地下には、フロアを細長くとった「天狗」銀座ナイン店があるのだが、その半分くらいを新業態の「テング…

並木通り「La Viola」

今日は、本屋めぐりをした後、久しぶりに銀座へ。まずは銀座らしい場所にも、ということでこの店へ。三笠会館が経営するイタリア風バールで、手前が立飲みバール、置くがテーブルのあるレストランとなっている。三笠会館らしい、そつのないインテリア。注文…