「泡立つ青春」(マキノ正博監督・一九三四年)
創建当時の「ライオン銀座七丁目店」ビヤホールの姿を見ることのできる映画が、これである。大日本麦酒株式会社のPR映画だが、主に戦前期に活躍し、生涯に二六〇本以上もの作品を作り上げた名監督・マキノ正博(雅弘)がメガホンをとっている。
映画はまず、都市対抗野球の場面から始まる。一九三四年に行われた第八回大会で、大阪対八幡の決勝戦。大阪が九回に同点に追いつき、延長の末にサヨナラで勝った場面が収録されている。都市対抗というと、現在ではパワフルなチアリーディングが思い浮かぶが、この映像では観客のほとんどがパナマ帽をかぶった男性である。主人公が友人とともに観戦しているのだが、本人は大阪、友人は八幡を応援している。試合後、くさっている友人をなだめ、タクシーで向かったのは銀座。ビヤホールでは、歌手の歌に合わせて大勢の客が乾杯を繰り返している。歌に合わせて、ウエイトレスがステップを踏んでいるのが楽しい。
何しろ、完成したばかりのビヤホールである。壁のタイルの目地が真っ白で、今ではすっかりすすけている天井も白っぽく見える。現在ではテーブルの大部分が丸形だが、当時は角張っている。しかし、当たり前だが壁画も柱も、天井から下がる照明も、今とまったく変わらない。
二人はその後、「ホームスチール」と称して主人公の家へ行き、さらにビールを飲む。酔っぱらった友人に、息子が「どうしてビールって出来るの?」と質問したところ、居合わせたビール会社の社員が説明を始める。こうして場面は工場に移り、ビールの製造工程の説明が始まるのである。
大麦の入った藁俵を、労働者が担いで運ぶ様子から始まり、精麦から糖化、搾汁、発酵、熟成を経て、樽詰め・瓶詰めされるまでが、手際よく説明される。樽は木製で、これを「エビスビール」の文字が入った半纏姿の労働者が運び、トラックに積み込む。そして説明が終わったかと思うと、場は一転してどこかの公園に移り、音楽を背景に一八人の神楽坂芸者たちが「ビールよいもの」なる歌に合わせて踊り始める。踊りのところどころに、ビールを飲む仕草が入るのが笑える。芸者たちが「オ」「ワ」「リ」の人文字を作ったところで終わり。
残念ながら単売はされておらず、マキノ雅弘の代表作に特典DVDを組み合わせた「鴛鴦歌合戦 コレクターズ・エディション」でのみ入手できる。ただし現在は品切れで、Amazonのマーケットプレイスでは、定価を上回る値段がつけられている。ちなみに恵比寿ガーデンプレイスのエビスビール記念館では、ビアホールの場面だけを一日中繰り返し放映している。
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