橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

居酒屋の戦後史

所沢の「百味」が閉店

あるいは今年は、戦後居酒屋文化の曲がり角となるかもしれない。あちこちから、老舗酒場が閉店したという知らせが舞い込んでくる。 そして数日前、所沢の「百味」が閉店したという知らせが舞い込んできた。社長は以前から体調が悪く、後継者もいなかったとの…

地酒ブームと酒ジャーナリズム

一九七五年ごろから始まった地酒ブームをさらに加速したのは、酒ジャーナリズムともいうべきスタンスを前面に出した、一連の出版物だった。その始まりは、稲垣眞美の『ほんものの日本酒選び』(三一書房・一九七七年)である。 この本は、稲垣の個人的なエピソ…

地酒ブームの到来

「地酒」という言葉は、今ではあまり使われなくなった。全国各地に優れた日本酒を造る小さな酒蔵が数多くあることは、すでに常識化している。名の知れた酒も多いし、蔵元と熱心な酒販店などの努力により、少ないながらも全国的に流通するようになっている。…

新興チェーン居酒屋の系譜

チェーン居酒屋の先駆者である「天狗」と「養老乃瀧」は、ある時期まで居酒屋界の両横綱とも評されたが、一九九〇年前後から新興のチェーン居酒屋が台頭し、やがて追いつかれ、追い越されていく。その起点は、七三年に一人の男が札幌で開店した小さな居酒屋…

チェーン居酒屋の先駆者「天狗」

チェーン居酒屋が花盛りである。覚えきれないくらい多数のブランドを展開する大手チェーンがある一方、わずか一〇店前後を展開するだけの中小チェーンも多い。都心の居酒屋街など、チェーン店でない店を見つけるほうが難しい。 バブル崩壊以降、居酒屋の店舗…

「養老乃瀧 要町店」

これから時々、「居酒屋の戦後史」と題して、ちょっと長めの記事を書くことにしたい。 新年早々から、というわけではなく、去年の暮れのこと。近所の養老乃瀧に行ってみた。 養老乃瀧の前身にあたる富士食堂が松本市駅前に開業したのは、一九三八年のこと。…