橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

酒の本

三浦展『横丁の引力』

三浦展さんが東京とその周辺の横丁について論じた本である。各地の横丁を軽く案内するような本ではなく、かなりアカデミックだ。ヤミ市・花街・赤線、近代の下層社会、建築史などについての文献を渉猟し、横丁の魅力と存在意義について、骨太に論じていく。…

『居酒屋の戦後史』

昨日の日経夕刊で紹介されました。「飲み屋と酒の変遷を描きながらの見事な時代史」というのは、まさに私が欲しかった/目標にしていた評価でした。ありがたい。居酒屋の戦後史 橋本健二著 飲む習慣の広がり描く 居酒屋の戦後史 (祥伝社新書)作者: 橋本健二…

新著のお知らせ

12月初めに、新著『居酒屋の戦後史』が出版されます。 一九四五年の焼跡の国民酒場から説き起こし、酒と居酒屋の戦後七〇年(戦時中を一部に含みますが)を振り返ります。ご一読いただければ幸いです。 まだ校正が終わっていないのに、予約できてしまうよう…

『一個人』二〇一五年三月号

またまた雑誌の日本酒特集だ。目玉の記事は、表紙にもあるとおり「決定!至福の日本酒ランキング」。狩野卓也、山同敦子、ジョン・ゴントナー、山中基康など日本酒のエキスパート九人が審査員となり、吟醸酒、純米酒、本醸造、普通酒、無濾過・生原酒のBEST1…

日本酒特集相次ぐ

先日、「東京人」の最新号を紹介したところだが、その後も雑誌で日本酒特集が相次ぎ、日本酒ラッシュの感がある。喜ばしいことだ。今年は紛れもなく、日本酒復興の年である。dancyu2015年2月号出版社/メーカー: プレジデント社発売日: 2015/01/06…

『東京人』2015年2月号

今回の特集は、「日本酒」。 私も登場して、池袋の名酒居酒屋を紹介しています。ご一読を。東京人 2015年 02月号 [雑誌]作者: 都市出版出版社/メーカー: 都市出版発売日: 2014/12/29メディア: 雑誌この商品を含むブログを見る

土田美登世『やきとりと日本人』

やきとりは、私の居酒屋考現学にとっても重要な研究対象であり、拙著『居酒屋ほろ酔い考現学』でも一章をあてて論じている。ところが今度は、やきとりとやきとり屋の歴史から、調理法、素材、そしてやきとり屋の現況まで論じてみせた一冊が現われた。とくに…

『居酒屋ほろ酔い考現学』

二〇〇八年に出版した『居酒屋ほろ酔い考現学』が、文庫本になりました。私としては、初の文庫本になります。内容はほとんど同じですが、所得階層別の飲酒代、酒の消費額などのデータは、最新のものにしてあります。格差拡大による酒消費の二極化傾向は、ま…

飯野亮一『居酒屋の誕生──江戸の呑みだおれ文化』

これは、居酒屋に関する初の本格的な歴史書といっていい。断片的な情報を集めたものではない。江戸期の文献を幅広く渉猟し、江戸期における居酒屋の全体像を描いている。これはひとつの偉業である。 居酒屋の起源についてしばしば言われるのは、江戸は労働者…

大本泉『作家のごちそう帖』

近代日本の作家たちの、食をめぐるエピソードを集めた本なのだが、この種の本にしては酒に関するエピソードが比較的多いから、ここで紹介してもいいだろう。 夫の鉄幹は下戸だったらしいが、与謝野晶子は酒好きで、寝る前にコップ一杯の冷酒を楽しそうに飲む…

『東京人』2014年10月号

月刊誌の『東京人』、今回のテーマは「大吉祥寺圏を遊ぶ」。吉祥寺を広くとり、中央線では西荻窪から武蔵境まで、南は深大寺までを取り上げた特集です。このなかに「酒場」という一文があり、私が書いています。ご笑覧を。東京人 2014年 10月号 [雑誌]出版社…

「dancyu」日本酒特集

と思ったら、dancyu最新号も、日本酒特集だった。白地に「日本酒。」とのみ書かれた潔い表紙だ。冒頭には山同敦子さんによる概説記事。以前のように甘辛、淡麗濃醇と簡単に分類できなくなった日本酒を、「モダン」「トラディショナル」「ローカル」「フォー…

雑誌の日本酒特集

雑誌で、日本酒特集が相次いでいる。少し前だと、昨年一二月の『PEN』。「星付き50銘柄が決定しました!」というのがキャッチフレーズで、かなり売れたらしい。 最新の二冊が、「モテる日本酒。」がテーマの『HANAKO FOR MEN』と、「心尽くしの『日本酒』…

かざまりんぺい『新世代日本酒が旨い』

「豊盃」「伯楽星」「天青」「村祐」「醸し人九平次」「而今」「蒼空」「風の森」「悦凱陣」。日本酒好きな人なら、どこかで飲んだことがあるか、あるいは今度飲んでみたいと思っている銘柄ばかりだろう。地酒ブームといわれた時代にもてはやされ、長きにわ…

『東京人』2014年1月号 特集「四時からの悦楽」

『東京人』の最新号の特集は「四時からの悦楽」。まだ明るい夕方四時から居酒屋で酒を飲むという趣向で、赤羽を平松洋子さんと林家正蔵さん、浅草を太田和彦さん、銀座・有楽町・新橋を久住昌之さん、立石・北千住・鶯谷をなかだえりさん、そして中野・高円…

端田晶『ビールの世界史 こぼれ話』

以前も紹介したことがあるが、著者はサッポロビールでマーケティング、広報などを担当、恵比寿麦酒記念館の館長やCSR部長などを歴任した人物。ビールを中心に酒に関する博識はとどまることを知らず、軽妙な文体もますます完成度を高め、本書でひとつの頂点を…

小坂剛『あの人と「酒都」放浪』

好評だった読売オンラインの連載記事「酒都を歩く」が本になりました。吉田類、太田和彦、吉永みち子さんたちとともに、私も登場しています。なぜか、なぎら健壱さんとともに、巻末の「郷愁の町・東京」のセクションです。カラーのページが多く286ページで88…

吉本隆明『吉本隆明の下町の愉しみ』

佃島で生まれ育った吉本隆明は、いったんは家族と共に公団の一戸建て住宅団地に移り住むものの、後には上野・千駄木あたりの下町、または地形的には山の手だが、下町的な雰囲気の濃厚な街に住み続けた。彼の下町への愛着を綴った文章は、小川哲生が編集した…

「dancyu3月号 新しい日本酒の教科書」

いま、日本酒が美味い。数年前から多くの酒蔵で飛躍的に酒質が向上しているのに加え、新酒の季節である。日本酒の最近の動きに疎いなら、専門店で「純米吟醸無濾過生原酒」などと書いてある酒を探し、買って飲んでみるといい。日本酒の概念が変わるだろう。 …

『嗜み』No.15

連載の「全国居酒屋ほろ酔い考現学」、今回は富山市篇。今回取材したのは、富山駅近くの老舗「親爺」、魚料理の「桜亭」、日本酒バーの「DOBU6」、「満寿泉」の「桝田酒造店」、酒屋の日本酒バー「石坂善商店 酒家蔵部」、魚料理の「米清あら川」、名酒居酒…

『樽平』の常連だった黒澤明

黒澤明の優れた評伝として定評のあるのが、堀川弘通の『評伝 黒澤明』である。この中に、気になる一節があった。 戦前の新米監督時代、黒澤は助監督の堀川らを誘って、よく酒を飲みにいった。一九四〇年頃の話である。そして堀川によると、「渋谷では『多こ…

『銀座と戦争』 炎上するキリンビヤホール

今日の銀座を、というより東京を代表するビヤホールは、銀座ライオン銀座七丁目店である。ここはもともと大日本麦酒の本社ビルで、その一階がビヤホールになったものである。完成したのは一九三四年で、設計者は菅原栄蔵。現在の建物は当時のままで、昭和初…

週刊ポスト「大人の極楽居酒屋 全国73」

いま発売中の『週刊ポスト』の特集記事です。巻頭は、鈴木宗男と吉田類の異色対談。そのあとは、まず東京、そして全国の居酒屋を、久住昌之、倉嶋紀和子、なぎら健壱、森下賢一、吉田類、渡邉和彦、そして私の七人が紹介します。私は東京の居酒屋はパスして…

『嗜み』No.14

連載中の「全国居酒屋ほろ酔い考現学」、今回は甲府市・甲州市篇。甲州市では「ルバイヤート」で知られる丸藤葡萄酒、レストランとカーブを持つ市の施設「ぶどうの丘」、甲府市では郷土料理屋の「奈良田 駅前店」、山梨産中心のワインバー「PIECE橘町」、鳥…

Chris Bunting, Drinking Japan

英語で書かれた、日本の酒と酒場のガイドブック。たいへん良く出来ている。日本の酒文化を論じた序論から始まり、第一章は日本酒、第二章は焼酎、第三章は泡盛、第四章はビール、などと続く。 日本酒の章を見れば、まず酒蔵と酒の製法の解説から始まり、日本…

久住昌之『昼のセント酒』

名作の誉れ高いマンガ『孤独のグルメ』だが、主人公の井之頭五郎は酒を飲まない。だから、何となく原作者の久住昌之も酒を飲まないものと思っていたら、実は酒好きらしい。本書は作者が、東京のあちこち(第六話だけは北海道だが)を散策したあと、銭湯に入り…

藤木TDC『昭和酒場を歩く──東京盛り場今昔探訪』

休刊になってしまった『荷風!』は、いい雑誌だった。アカデミックな香りが強い『東京人』とは対照的に、猥雑な盛り場性を濃厚に湛えた本の造りが魅力的で、号によってややムラがあったとはいえ、十分な情報量があり、読み応えがあった。なかでも藤木TDCの書…

『古典酒場』vol.11

vol.11が出ました。メインの特集は『絆〜KIZUNA〜酒場』で、親子の絆、師弟の絆、店主と客の絆などをテーマに、またまた数多くの新店を紹介しています。とくに、秋元屋系の店を総ざらいした記事は必読。恒例の座談会は、先日紹介した西荻窪の「よね田」での…

『嗜み』No.13

最新号です。連載中の「全国居酒屋ほろ酔い考現学」は、松江市編。松江にもすばらしい酒、そして居酒屋がたくさんありました。とくに「佐香や」「朔屋」「松江堀川地ビール館」の三軒はおすすめです。松江へ行くことがあったら、お忘れなく。 メインの特集は…

『嗜み』No.12

出たのはだいぶ前ですが、これまで紹介しそびれていました。連載中の「全国居酒屋ほろ酔い考現学」、今回は福島市・郡山市篇。震災に加え、原発の放射能の被害の渦中にある福島の居酒屋店主たちの苦闘・奮闘、そして常連客たちとの心温まる交流を紹介してい…