橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

かざまりんぺい『新世代日本酒が旨い』

「豊盃」「伯楽星」「天青」「村祐」「醸し人九平次」「而今」「蒼空」「風の森」「悦凱陣」。日本酒好きな人なら、どこかで飲んだことがあるか、あるいは今度飲んでみたいと思っている銘柄ばかりだろう。地酒ブームといわれた時代にもてはやされ、長きにわたって名をとどろかせてきた銘酒ではない。近年になって見出されたり、世代交代などをきっかけに酒質が飛躍的によくなって、日本酒好きに知られるようになった酒である。私も大好きな酒ばかりだが、その特徴は何か。著者は、これを次のように表現する。

「口に近づけると、メロンや洋梨のような淡い果実の香りを感じ、口に含むと、ほのかな甘さが広がる。フレッシュでフルーティー。そして、舌の上に果実のようなさわやかな酸味が立ち上がり、なんの抵抗も無く、きれいに切れてするりと喉におちてゆく」

なるほど、十分すぎるくらいに的確である。
この本は、各地の酒蔵を訪ね歩くとともに、戦後の日本酒の歩みを振り返り、日本酒はいま「歴史上最高の味」になっていると確信した著者が、日本酒への愛と伝道師魂を詰め込んで書いた本。山同敦子の本と近いところがあるが、こうした新世代の酒に絞り込んだという点ではよりストレートである。巻末には全国をカバーした販売店リストもあるから、手に入れる方法もわかる。ちなみにこれらの酒の多くは、楽天市場でも入手できる。

新世代日本酒が旨い 角川SSC新書 いま飲むべき全国の36銘柄

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