橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「まるます家」

classingkenji2014-01-25

この日は、まあまあ天気がよかったこともあり、午後からカメラをもって出かけることにした。
まずは、上野へ。御徒町で降りて不忍池へ。ここで下町風俗資料館を見学。深川江戸資料館ほど規模は大きくないが、江戸の長屋が再現されているところ。上野のついでに行けるから便利だ。不忍池の周りを歩いてから坂を上り、国立博物館の横を通け、寺院群の間を通って鶯谷へ至る。ここで時計を見ると、四時少し前だ。板橋の日の入りには何とか間に合いそうなので、山手線と都営三田線を乗り継いで志村坂上で降りる。やや雲が多いが、見上げると高層マンションの上は夕日に照らされている。
実はこの近くには、私が秘かに「板橋の富士見坂」と目をつけている坂がある。城山神社の横を降りる急坂で、「城山の坂」と呼ばれている坂だ。坂道の正面に富士山があるというのではなく、少し南側にずれるのだが、急坂だけに展望がきき、天気のいい日は富士山を見ることができる。そしてカシミール3Dでシミュレートしたところ、今日はこの場所から、富士山に沈む夕日を見ることができるはずなのだ。しかし残念ながら、写真で見るように富士山は雲に隠れてしまっている。ちなみに東京から見て富士山に夕日が沈む日は場所によってかなり異なり、城北の埼玉県境あたりだと一月一〇日頃。ここからだんだん南に下っていき、池袋は二五日頃、城南だと二月になり、東京湾岸では二月一〇日頃となる。これからしばらく、都心では「ダイヤモンド富士」を見るチャンスが続く。
さて、そろそろ飲みに行く時間だ。まずはすぐ近くの「やきとんひなた 志村坂上店」へ。ここは本店と同じく、日本酒とイタリア料理メニューが充実した名店。今日もほぼ満員だ。
そのあとは、三田線埼京線を乗り継いで赤羽へ。今年のまるます家初めである。やはり満員だが、五分ほど待つとカウンターに座ることができた。ここで飲むと、ほっとする。自分が東京・下町の何十年もの歴史の、一角を占めているという安心感、あるいは充実感。今年も何度も、いい思いをさせていただこう。(2014.1.13)