橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

東武練馬「春日」

classingkenji2008-03-21

東松山は、やはり遠い。ここで何軒もはしごして、酔っぱらってしまうと先が不安なので、ともかく都内に帰ることにする。急行の池袋行きに乗ると、都内の停車駅は成増だけ。成増が近づくと、なんとなく郷愁が起こってくる。思わず降りて、各駅停車に乗り換え。向かったのは、東武練馬のこの店。
ここへ来たのは、ちょうど一年ぶりになる。東京二三区の周辺部を逆時計回りに進むと、板橋区のまん中あたりで武蔵野台地の縁の急斜面にぶつかる。ここを超えると、しだいに落ち着いた住宅地が現れる。下町を出て、山の手に入るのだ。ここは、その境目の地で、いわば国境の町。この店は、その象徴のような名店だ。店にはいると、左側にカウンターが八席、右側にはテーブルが四卓。奥には座敷もある。カウンターの中では紺の作務衣を着た板前が立ち働く。メニューには定番の料理と季節の美味しいものが満載で、生うに七三〇円、活〆平目さしみ八五〇円、やり烏賊さしみ・そうめん四五〇円、活つぶ貝さしみ五〇〇円、はまぐり酒蒸し五〇〇円、ほたる烏賊三九〇円、ふぐ皮にこごり三九〇円、明石名産タコさしみ五五〇円、鰺たたき・塩焼き・竜田揚げ五五〇円、なの花おひたし三九〇円、たらの芽天ぷら四七〇円、ふきのとう天ぷら四七〇円など。ビールはサッポロ黒ラベル大瓶が五二〇円、大生が七八〇円、焼酎は白波、いいちこ、二階堂などが一杯三五〇円、ボトルは一七五〇円という安さ。日本酒も久保田、〆張鶴、獺祭、立山など一五種類あり、四二〇円から。店のスタイルもメニューも山の手の割烹だが、値段はむしろ大衆酒場に近い。前回と同じく、鰺の南蛮漬け(写真)を注文。骨も頭も食べられるようにからりと揚がり、玉葱のスライスが山盛りにされている。東武東上線方面に行くことがあったら、ぜひどうぞ。東武練馬駅の南口を出て、右側の小道に入ってすぐ。(2008.3.11)

大衆割烹 春日
練馬区北町2-36-27
17:00〜24:00 無休