橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

麻布十番「あべちゃん」

classingkenji2008-03-28

麻布十番は、六本木ヒルズから坂を下ったところにある商店街で、元の町人町。いわば、山の手の中の下町である。こういう場所を、歴史的に「下町」と呼ぶことがあったかどうかというのが、私の前からの疑問で、いつか調べなければと思っている。ご存じの方がいたら、ご教示ください。以前は庶民的な商店街で、今でも裏通りに回れば、取り残されたような古い小さな商店や安アパートがある。表通りにはおしゃれな店が増え、ずいぶんと港区の繁華街らしい感じになってきたが、庶民的な店も点在している。その代表格のような店が、ここ。店内は明るく、外からよく見えるので入りやすい。左側にカウンターが七席あり、うち一席は焼き場の真ん前の特等席。右側から奥にかけて、テーブルが一〇卓ほど。値段は、下町並みとまでは行かないが、このあたりとしては安い。串焼きは一四〇円が基本で、ねぎまの焼鳥とつくねが一五〇円、牛モツ煮込みが五〇〇円、サッポロラガー中瓶五五〇円、生ビール大八二〇円、中五〇〇円、日本酒二合七七〇円、一合三九〇円、生酒八六〇円、酎ハイ・サワー類三九〇円。牛モツ煮込みは、脂のびっしりついたシロを濃いめの味で煮込んだもの。「山利喜」の煮込みをやや甘めにしたような感じで、大変美味しい。モツ焼は大ぶりで、値段以上の価値がある。焼き場の前にたれを入れた壺があるが、その側面にしたたり落ちたタレが炭火で焼かれて焦げ、長年のあいだに黒光りする大きな塊になっている。歴史を感じさせるが、それもそのはず、終戦直後から使い続けているとのこと。大変な繁盛店で、六時過ぎにはほぼ満員。客は、地元のご隠居さん風と、スーツにネクタイ姿のサラリーマン、地元の裕福そうなご夫婦、それに外人ビジネスマンなど。多彩な顔ぶれが、この土地を象徴している。昼はランチがあり、中休みのあと三時からやっている。(2008.3.25)

あべちゃん
港区麻布十番2-1-1
11:30〜13:00
15:00〜22:00 日休