橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

上板橋「いぶき」

classingkenji2009-09-13

上板橋駅北口を出て、バス通りを東武練馬方向へ少し行ったところの右側。目立たない店構えなので、見落としやすいかもしれない。中に入ると、右側にL字型カウンターがあり、奥には座敷。店内は、ゆったりスペースをとってあり居心地が良い。カウンター席も間隔が広く、工芸品のような白木の椅子には、片側に手すりがついている。
この店の最大の特徴は、禁煙であること。最近では珍しくないかもしれないが、十数年前からそうだった。そのせいか、店内にはくすんだところがなく、白木は白木のまま。全体に明るい印象がある。
品の良い店だが、値段は安い。カウンターの上には、日替わりのお総菜が数種類。厚揚げ・大根・玉こんにゃくの煮物、肉団子の甘酢あん、いんげんの明太マヨネーズ、茄子・ししとう・茗荷の揚げ浸しなど、三二〇円から三七〇円。他の料理も、二〇〇円台から四〇〇円台が多い。あつあげ、はんぺん焼き、芽かぶ、もろきゅう、しらすおろし、漬け物、塩豆など、簡単なものは二一〇円均一。最高は六三〇円の馬刺しだろうか。酒は、埼玉県の毛呂山町というところにある麻原酒造の酒をおき、毛呂美酒、武蔵野、大辛口、原酒など、一合が四二〇円。他の店ではみたことがないが、繊細な味わいの良い酒である。ビールはヱビスで、大瓶が六八〇円、中ジョッキが五八〇円。酎ハイ類は三七〇円。
煙草を吸わない人は、禁煙の居酒屋がいかに居心地の良いものかを知ることができる。女性一人でも入れる雰囲気で、近所の女性は恵まれているといっていい。カウンターの中の女性二人が応対し、カウンターの外側の片隅では、いつも主人が客といっしょになって飲んでいる。最初は入りにくいかもしれないが、入ってしまえば気さくな雰囲気であることが分かる。近所に住んでいた頃、「もつ九」の週に一度の休業日には、ここへ来ることが多かった。遠出していく価値のある店だと思う。(2009.9.4)

板橋区常盤台4-34-3