橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

2009-11-01から1ヶ月間の記事一覧

「ふくろ」

今日は営業活動で、埼玉の新座へ。高校生相手に授業をして、帰りは近くの志木ニュータウンを通って柳瀬川駅へ。総戸数三〇〇〇以上の高層集合住宅で、人口は一万人近くにもなるはずだが、人通りは少なく、不思議なほどひっそりしている。商店街も、閉店した…

海の幸のサラダ・トリュフソース

日本人にあまりなじみのない食材のひとつが、トリュフだ。丸のままだと手に入りにくいし、高い。しかし瓶詰めのソースならさほど高くはないし、使いやすい。いちばん簡単で美味しく仕上がるのは、ホタテや白身魚をバターでソテーし、トリュフソースを加え、…

「炭火焼 Ken坊」

この不況だというのに、経堂の西通りには、新しい店のオープンが続いている。この店も、できたばかりの店。かつて「ぼんぞ」というラーメン屋兼ロックバーがあった場所だ。洋風のインテリアで、カウンターとテーブルがある。 店先の看板に「串に刺ささない、…

阿部健『どぶろくと女』

著者は酒のマーケティングと酒文化の普及に、長年携わってきた人物。その経験と蓄積に加え、退職後の十数年を費やして資料・文献を渉猟し、まとめたのが本書である。全六二九ページ、目次だけでも一二ページという大冊だ。 記述は縄文期に始まり、万葉の時代…

中井「楽屋」

中井駅のすぐそば、踏切に面した場所、ちょっと雑然とした雰囲気の入り口から階段が二階へと続いている。貼り紙には「中井駅にいちばん近い居酒屋です。ワンコイン以下のお酒各種、酒菜40品目以上。区内町御用達 酒菜研究所」とある。 階段を上ってみると、…

中井「鳥香」

今日は、ふと思い立って、帰り道に中井で降りてみる。通勤で使っている地下鉄大江戸線だが、西武線に乗り換えて野方の「秋元屋」へ行こうかなどということでもない限り、ここで降りることはなかった。西武線の踏切の周辺に、少し賑やかな商店街があり、心惹…

友里征耶『グルメの嘘』

著者は「激辛」グルメライターとして知られる人物。批判された料理店関係者が大勢で自宅に乗り込んできたり、家族への危害をほのめかして脅迫されたりしたこともあるという。その激辛ぶりは、「友里征耶の行っていい店わるい店」で知ることができる。とくに…

板橋「松月」

JR板橋駅を東口に出て、左へ。線路脇の小径に入ったところが、前回紹介したバラック飲食店街だが、そこを通り抜けると少し広い道に出る。これが旧中山道で、左側の踏切を渡って歩くと、かつて板橋宿のあった長い商店街に出る。右側へ行ってもやはり商店街で…

板橋「隗」

JR板橋駅の東側は、かつて大規模なヤミ市があった場所で、駅前ロータリーの周辺に、当時の面影を残す飲食店街がある。これに対して西側は、比較的落ち着いた雰囲気だが、線路にへばりつくようにバラック飲食店街が残されている。 「飲み物 つまみ 全品100円…

板橋「北海」

ときどき里心がついて、板橋へ行きたくなる。なにしろ、二〇年近くも住んだ場所だ。第二の故郷という言葉があるが、実際には故郷よりずっと長く住んでいるから、私にとっての重みは、むしろこちらの方が大きい。先日(「まつや」、「明星」)は出版社の編集者…

「ガヤガ屋」

いつもと違った道から帰ってみる。小田急線の南側、少し遠回りになるが、このあたりにもいろいろ店がある。駅から線路沿いに西方向へ二分ほど歩いたところ、新しい店ができている。これだから、たまには通ってみないと。 店の名は「ガヤガ屋」という。和紙を…

橋本直樹『ビール・イノベーション』

著者は、キリンビールで開発研究所長、ビール工場長を歴任した人物。それだけに、ビール醸造の科学的側面について知り尽くしているのは当然だが、ビールの歴史やビール文化についての知識も相当なもので、実は本書も、半分以上は古代オリエントから始まるビ…

金町「ブウちゃん」

本日のしめくくりは、この店。金町駅南口の前の通りを、亀有方向に少し戻った場所で、赤いテント看板が目立つので、すぐ分かる。 店内は長いコの字型カウンターのみで、二五人くらい入れるだろうか。ちょっと雑然とした雰囲気だが、下町らしいゆるやかな活気…

金町「深川酒場」

この店については、外観を紹介するにとどめておく。中は明るいインテリアの普通の店なのだが、名前といい、暖簾の太文字といい、看板にちょうちんといい、下町大衆酒場好きには堪えられない店構えである。興味のある人は、探してみてください。

金町「ゑびす」

「大渕」のある居酒屋通りから駅の方に戻る。駅前は再開発が進行中で、更地になっている場所もある。そのすぐ近くにあるのが、この店。コの字型カウンター一五席だけの小さな店で、六〇過ぎかと思われる夫婦が切り盛りしている。カウンターの下に「天羽乃梅…

金町「大渕」

今日は、ふと思い立って金町へ。先日読んだ『みひらん 東京下町沿線編』に影響されて、小岩と並んで東京二三区最東端のこの町を訪れてみたくなったのである。大学から池袋へ出て、山手線で西日暮里まで行き、千代田線に乗り換える。六駅目が金町だから、そう…

太田和彦『東京 大人の居酒屋』

太田和彦の居酒屋本といえば、執拗なまでにメニューを書き写したデータ完備のガイドブックと、紀行文風のエッセイ集が思い浮かぶが、本書はやや趣が違う。 取り上げられた五五店は、すべて右側に文章、左側に写真という二ページ構成でまとめられている。写真…