橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「ふくろ」

classingkenji2009-11-30

今日は営業活動で、埼玉の新座へ。高校生相手に授業をして、帰りは近くの志木ニュータウンを通って柳瀬川駅へ。総戸数三〇〇〇以上の高層集合住宅で、人口は一万人近くにもなるはずだが、人通りは少なく、不思議なほどひっそりしている。商店街も、閉店したらしい店が目立つ。
東武線に乗って、池袋へ。まだ明るい時間だが、「ふくろ」で飲み始めることにする。例によって、高齢男性が多い。ホッピーを注文して、料理が出てくるのを待つ。回りの話題は、やはり政権交代だ。
自民党は長すぎたから、飽きられたんだなぁ」
「いや、これまで騙されてたんですよ」
「いや、そんなことじゃないと思うけど」
ここにも、自民党支持者と民主党支持者がいる。しかし、あまり政治に詳しいわけではない。
「これから社会党が何やるのか知らんけど……」「民社党子ども手当出して何になるんか知らんけど……」
社会党民社党民主党が混同されている。
おしゃれなご老人が入ってきてカウンターに座った。派手なシャツの上にベージュ色のベストを着て、その上に千鳥格子上着。胸にはオパールのブローチをつけて、茶色のハンチングをかぶっている。知り合いらしい七〇くらいかと思われる男性が、元気だったかと声をかける。
「こういうとこ来てないとボケるから。家にいて、人の悪口ばかり言っててもだめだよ。ホームなんか行きたくないねぇ。」
聞けば、大正一一年生まれで、御年数えで八八才。二歳の時に大震災に遭い、池の水がチャポンチャポンといっているのを見たのが、おそらく最初の記憶だという。戦争では、ハルピンへ。
「国のためとかいって、無銭旅行だよ。そう思わないと、やってられないよ。」
「ふくろ」は今日も、高齢男性の憩いの場所だった。(2009.11.9)

豊島区池袋1-14-2
7:00〜24:00 日祝休