橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

板橋「松月」

classingkenji2009-11-18

JR板橋駅を東口に出て、左へ。線路脇の小径に入ったところが、前回紹介したバラック飲食店街だが、そこを通り抜けると少し広い道に出る。これが旧中山道で、左側の踏切を渡って歩くと、かつて板橋宿のあった長い商店街に出る。右側へ行ってもやはり商店街で、こちらは巣鴨へと続く。必ずしも賑やかな場所ばかりではなく、ところどころ途切れているのを大目に見れば、都内でも有数の長い商店街といっていいだろう。
この巣鴨寄りの方へ、ほんの少し歩いた右側に、この店がある。メディアに取り上げられているのを見たことがないが、ここも大衆酒場の名店といっていい。
古い店だ。「中山道の煮込 創業43年」と貼り紙にある。木金土は酒の安い日、とのことで、ビール大瓶が何と四二〇円、ヱビスでも四五〇円、酎ハイは二一〇円、日本酒(鬼ころし)も二一〇円だ。少々時間が遅かったせいだろう。店に入ると、店員が「煮込み、終わってますけど、よろしいですか」という。ちょっと残念だが、いいだろう。まずは安いヱビスビール、そして刺身の四点盛りをいただく。マグロ、ハマチ、イカ、甘海老が盛り込まれ、六八〇円。鮮度もまずまずでイカと甘エビが光っている。酒の種類が、この手の店にしては多い。四合瓶で出しているのが菊水一六八〇円で、八海山と久保田は一杯五二〇円。焼酎もいろいろあり、海童のボトルは一八〇〇円。
L字型のカウンターが一〇席と、六人掛けテーブルが四卓と、小さめのテーブルが二卓。客はいずれも地元の人らしく、中高年男性の一人客が四人、三〇代男性の二人連れが二組、二〇代の子ども二人をつけたお祖父さん、二〇代男女の三人組など。地元の人々に長く愛されているということが、よく分かる。下に書いた休業日は、壁の貼り紙からの推測で、いつもこの通りかどうか保証の限りではない。(2009.10.23)

北区滝野川6-86-11
16:00〜23:30 第1・3・5日・祝休