橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

金町「ゑびす」

classingkenji2009-11-05

「大渕」のある居酒屋通りから駅の方に戻る。駅前は再開発が進行中で、更地になっている場所もある。そのすぐ近くにあるのが、この店。コの字型カウンター一五席だけの小さな店で、六〇過ぎかと思われる夫婦が切り盛りしている。カウンターの下に「天羽乃梅」のボトルが何本も並んでいる。飴色のカウンターが、落ち着いた雰囲気をかもしだす。
酎ハイが二五〇円、ビール中瓶五〇〇円、ウイスキーが三〇〇円、日本酒は剣菱と菊正があり、いずれも三七〇円。料理は魚介類が中心で、いか刺身と白魚が三〇〇円、帆立三五〇円、マグロブツ四〇〇円など、安い。天ぷらやフライも、種類が多い。刺身でいちばん高い五五〇円のインドマグロ中とろぶつ切りを注文すると、大きなぶつ切りが八個に、中落ちの部分が添えて出てきた。ツマは、茗荷、エゴノリ、そして菊の花。彩りもよく、実に美味しい。カウンターにいた六〇代の客も、これを見て思わずつられて注文する。
もう四〇年近くも、ここで店をやっているという。再開発で立ち退きを迫られたりしなかったのかと聞くと、「うちは関係なかった」とのこと。しばらくは大丈夫そうである。(2009.10.20)

葛飾区金町6丁目8−7