橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

押上「松竹」

classingkenji2010-03-29

浅草からさらに、押上まで歩く。間近で見るスカイツリーは、さすがに大きい。周りには、カメラをもった人々が群がっている。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」では、建設途中の東京タワーのCGが話題になったが、五〇年後になると、この建設途中のスカイツリーが映画に現れたりするだろうか。
さて、二軒目はこの店。先日紹介した『もつマニア』でも取り上げられている、知る人ぞ知る創業五〇年を超える名店。スカイツリーからも近く、ご覧の通り店の向こう側にそびえ立っているのが見える。完成すれば、高さは現在の二倍だから、先端まで同じ画面に収めるのは難しくなるだろう。注文ごとに炭酸の栓を抜いてくれる酎ハイ(四〇〇円)がおいしい。もちろん、元祖のエキス入り下町酎ハイである。もつ焼きは一本一〇〇円で、注文は一種類を二本ずつ四本からというのが決まり。新鮮で弾力があり、焦げ目も美しい。
なぜか、若いカップル客が二組。もつ焼き屋は初心者らしく、女将さんにいろいろ教えてもらっている。女将さんによると、この店のモツ煮込みはガツを使ったもので、刺身になるほんの一部だけをとった残りを入れているとのこと。他の店じゃ、これも刺身といって出してるかもしれないけど……と、誇らしげに言う。カウンター一〇席ほどの店を、娘さんと二人で和気あいあいと切り盛りする姿を見ていると、ちょっと心が温かくなってくる。(2010.3.11)

墨田区業平2丁目9-10
17:00〜22:00 日祝休