橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

久住昌之『昼のセント酒』

名作の誉れ高いマンガ『孤独のグルメ』だが、主人公の井之頭五郎は酒を飲まない。だから、何となく原作者の久住昌之も酒を飲まないものと思っていたら、実は酒好きらしい。本書は作者が、東京のあちこち(第六話だけは北海道だが)を散策したあと、銭湯に入り、そしてビールを飲むという趣向のエッセイ。帯カバーには「ビールを特別おいしくする街歩き」とのコピーがある。なるほど。出てくるのは、浜田山、北千住、三鷹、立会川、吉祥寺など。浜田山では、私も縁があった「かのう」が登場するのがうれしい。
序文で著者が書いている。夜の酒は、疲れたから、嫌なことがあったから、記念日だから、などと言い訳が多い。しかし昼の酒にはそれがない。飲みたいから飲んでいる、ただそれだけだ。だから、昼間の酒はサイコーだ、と。なるほど。ということは、昼酒を飲む余裕のなくなっている最近の私など、最高の酒を飲みそびれているわけだ。早く仕事を片づけて、昼酒を飲みに行くことにしよう。

昼のセント酒

昼のセント酒