藤木TDC『昭和酒場を歩く──東京盛り場今昔探訪』
休刊になってしまった『荷風!』は、いい雑誌だった。アカデミックな香りが強い『東京人』とは対照的に、猥雑な盛り場性を濃厚に湛えた本の造りが魅力的で、号によってややムラがあったとはいえ、十分な情報量があり、読み応えがあった。なかでも藤木TDCの書く記事には、その核の一つともいうべき存在感があった。川本三郎は両方の雑誌に書いたけれど、藤木TDCは『荷風!』にしか書かなかった(たぶん)。これが、二つの雑誌の違いを象徴していた。
本書は、彼が『荷風!』に書いた珠玉のようなルポを集めたもの。新宿から始まり、池袋、中央線沿線、小岩、大井町、品川と進むが、決して渋谷、六本木や赤坂は登場しない。出てくるのはうらぶれた路地裏の酒場とスナック、そして絶滅危惧種のグランドキャバレーだ。どの一文も、滅び行くように見えながら、しっかり生き残る昭和の酒場への愛情に満ちている。表通りばかり歩いている人は、これを読んで東京の本当の姿を知ることだ。そして同じく昭和酒場を愛する同好の士なら、静かな感動を味わえるに違いない。
- 作者: 藤木 TDC
- 出版社/メーカー: 自由国民社
- 発売日: 2012/02/10
- メディア: 単行本
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