橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

『樽平』の常連だった黒澤明

黒澤明の優れた評伝として定評のあるのが、堀川弘通の『評伝 黒澤明』である。この中に、気になる一節があった。
戦前の新米監督時代、黒澤は助監督の堀川らを誘って、よく酒を飲みにいった。一九四〇年頃の話である。そして堀川によると、「渋谷では『多こ春』、銀座では京橋の『酒蔵樽平』などから、まず飲み始める。酒の肴は、すべて『シナリオの構想』である」とのこと。
今も銀座八丁目にある名店「樽平」は、当時銀座六丁目にあったはずだが、京橋にももう一軒あったのか。それとも、堀川の記憶違いか。いずれにしても、移転したとはいえ「樽平」が黒澤の行きつけだったとは面白い。

評伝 黒澤明 (ちくま文庫)

評伝 黒澤明 (ちくま文庫)