橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

『一個人』二〇一五年三月号

またまた雑誌の日本酒特集だ。目玉の記事は、表紙にもあるとおり「決定!至福の日本酒ランキング」。狩野卓也、山同敦子、ジョン・ゴントナー、山中基康など日本酒のエキスパート九人が審査員となり、吟醸酒純米酒本醸造普通酒、無濾過・生原酒のBEST10と、長期熟成酒のBEST5を選ぼうという企画で、ランキング好きの日本人のツボを押さえている。結果を見ると、やはりランキングというものの難しさ、ある種の無意味さを感じざるを得ない。たとえば無濾過・生原酒は一位が遊穂、二位が宗玄、三位が玉川、四位が菊姫、五位が仙禽という結果だが、おそらくこの五種類をすべて好きだという人は少ないだろう。異なる基準をもつ審査員の評価を平均した結果である。
ランキングを売り物にする雑誌には「レコード芸術」「キネマ旬報」などがあるが、これらのランキングは無意味のようで意味がある。というのは、各審査員の採点結果が一覧表になっているので、自分と好みが近い審査員を探し出して、その評価を参考にすることが可能だからだ。この特集でも、各審査員の採点結果を公表すればよかったのではないか。
しかし注目酒蔵紹介、日本酒の歴史、日本酒の製法、各地の酒の特徴など、記事は幅広く実用的だ。これ一冊で日本酒の基本を押さえることのできる、いい特集だと思う。(2015.1.29)

一個人 3月号

一個人 3月号