橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

トビウオのなめろう

classingkenji2009-06-09

なめろうとは、ご存じの通り房総の郷土料理で、魚の身を叩いて味噌と生姜で味をつけ、さらに大葉、ネギ、ミョウガなどとまぜたもの。魚は青魚が基本だが、店によっては残り物をいろいろ加えることもあり、私がときどき行く店では、イカを加えて粘りけを出している。身の叩き方は、数ミリ角の賽の目程度に抑えることもあれば、原形をとどめないほど叩いて練り合わせることもある。素材もいろいろだが、私がいちばん好きなのはトビウオだ。
もともと身に粘りがあるので、それほど叩かなくてもねっとりした食感が出てくる。鰺や鰯の場合、素材や作り方によって水っぽくなるが、その心配はない。トビウオには青唐辛子が付き物なので、必ず加えること。ただし辛みが強いので、入れる量には気をつけなければならない。冷酒の肴としては、最高のもののひとつだろう。