橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

日本各地

「ブラッスリー銀座ライオン 静岡店」のエーデルピルス

翌日の仕事は午前だけ。軽く昼食をいただいたあと、静岡駅まで行き、わさびやわさび漬けなど買物を済ませる。そして向かったのは、この店。駅ビルの一階にあり、改札からすぐだ。 国産のピルスナータイプのビールで最高峰は、何といってもサッポロのエーデル…

静岡・青葉横丁「おふみ」

二軒目は、青葉横丁へ。ここはもともと、繁華街を東西に横切る青葉通りあった屋台が移転して作られた横丁。飲食店街の成り立ちとしては、典型的なもののひとつといえる。狭い路地の両側に、静岡おでんを出す店が十数軒並んでいる。静岡おでんは、濃い汁で煮…

静岡「鹿島屋」

頼まれた仕事で、静岡へ。静岡は、大学院を出てから一四年間勤めた場所である。とはいっても、東京の本宅と行き来する生活で、通常は週に二泊三日、時期によっては一泊しかしなかった上に、滞在時間を出来るだけ短くするため、夜遅くまで大学に居残って雑務…

青森「駅前銀座」

タクシーを拾って、駅前に戻る。もう遅い時間だが、昼間に通りかかったときから気になっていた一角がある。駅を出て左側、狭く薄暗い路地に小さな店が軒を並べる「駅前銀座」である。看板に「ばあばの店 田舎料理」と書かれた「うさ美」に入ってみることにし…

青森「さんふり横丁」

次に向かったのは「さんふり横丁」。これは長屋形式の居酒屋街で、古くは栄えた料亭の跡地を利用して五年前に作られた。赤提灯が点ると、まるで昭和三〇年代の居酒屋街にタイムスリップしたような風情になる。ちなみに「さんふり」というのは津軽人気質を表…

青森「小政」

そろそろ居酒屋の開く時間だ。この日、最初に訪れたのは「小政」。創業から五〇年、現店主の増田浩司さんが姉夫婦から店を受け継いでもう二〇年。建物は一度建て替えたが、江戸時代の旧家から譲り受けた梁を使ったり、古い民具を飾ったりして、昔からの店の…

青森「新鮮市場」

翌日はまず、市場へ行ってみることにした。 青森には、ヤミ市から生まれた市場が二つある。駅前にあった市場団地は、海産物店を中心に一五〇店もがひしめく「青森の台所」だったが、一〇年ほど前に再開発で撤去され、「アウガ」というビルの地階に収容されて…

青森「篤」

次に向かったのは、市街を南北に貫く柳町通りに面した「篤」。この店を訪れたのには、理由がある。 戦後、青森駅の駅前から南側にかけてヤミ市が林立し、市の復興を支えた。これが現在も残る市場の始まりである。ここで、新しい料理が生まれた。厳寒の中、青…

青森「五事」

夕暮れ時に向かったのは、旧浜町の「五事」である。東京の青森料理店「なか村」の店主が、これ以上の店はないと教えてくれた。裏通りにさりげなく建っていて、引き戸を開けると招き猫が勢揃いしてお出迎え。右側にカウンター、奥にテーブル席がある。この店…

青森「八甲田」

連休の初めは、青森へ。ちなみに私は、今回の青森訪問で、全四七都道府県を踏破したことになる。 青森に着いたあと、まずホテルに荷物を置き、JR駅附近へ。少々空き時間があったので、早くから開いている店だと聞いていた「八甲田」へ。古川市場の近くにあ…

「マンズワイン 勝沼ワイナリー」

翌日は、勝沼へ。「ぶどうの丘」でランチを食べ、ワインを買うのが主目的である。時間があったので、ついでに気に入っているメルシャンの工場へ、と思ったのだが、改装中で閉鎖しているとのこと。そこで、まだ行ったことのないマンズワインへ行ってみること…

甲府「大黒ホルモン」

甲府を初めて訪れたのは、おそらく一七−八年前のことである。その後、山梨県の某団体から研究協力者を頼まれたことから、年に二回程度訪れるようになった。仕事は三年ほどで終わったが、煮貝と馬刺し、ほうとうのおいしさ、大衆酒場でワインを飲むという独特…

甲府「奈良田」

甲府の郊外に、同名の大きな老舗郷土料理店があるが、こちらはその親戚のママが一人で切り盛りする、カウンターだけの小さな店。馬刺しや馬煮込み、山菜などはいつでもあるが、季節によってキノコや猪など、珍しい地元の食材を使った料理を出してくれる。こ…

甲府「太助」

一泊二日で、山梨へ。宿泊は甲府で、ホテルに荷物を置いて早々に駅前へ。山梨の人は郷土料理に冷淡なところがあり、居酒屋も選んで入らないと、郷土料理がまったく置いてないなどということが珍しくない。とくに仕事関係で地元の人と飲みに行くと、魚介中心…

松山「蔵元屋」

そろそろ帰りの飛行機の時間だが、まだ試してみたい酒がある。こんな時にうってつけの場所があった。愛媛県酒造組合のアンテナショップ「蔵元屋」である。壁一面の冷蔵庫は、地酒で埋め尽くされている。県内の全銘柄を揃え、試飲は小さなグラスで一杯一〇〇…

松山「道後麦酒館」

東京へ帰る日になる今日は、道後温泉へ。道後温泉本館で、日の明るいうちから温泉にゆっくり浸かったあと、そのすぐ近くの道後麦酒館へ。これは道後の地酒「仁喜多津」で知られる水口酒造が経営する地ビールレストラン。ビールそのものはレストラン内ではな…

松山「網元」

大街道付近はほぼ探索し終えたので、ちょっと場末の方にも足を伸ばしてみる。伊予鉄の松山市駅は、江戸時代の市街地のほぼ南の端にあり、そこから線路を渡って南や西へ行くと、しだいに場末感が漂ってくる。そんな地域の踏切のそばに「網元」があった。 店先…

松山「小判道場」

松山中心部の繁華街、大街道周辺を徘徊し、見つけて次に入ったのが「小判道場」。古い建物で、白地に墨文字の暖簾など、東京の下町にある大衆酒場の名店のようだ。店の内部も、予想通りに古い居酒屋の造りだ。大きなL字型カウンターがあり、ご夫婦二人で切…

松山「たにた」

次に訪ねたのは、夏目漱石と縁のあるこの店。漱石は『坊っちゃん』にもある通り松山で二度住まいを変えたが、最後に落ち着いたのが、士族の家の離れ屋敷である「愚陀仏庵」。「たにた」は、この屋敷の庭だった場所に建っているのだ。 いちばんの自慢はオコゼ…

松山「赤丹本店」

二泊三日の予定で、松山へ。日が暮れかかる頃、まず入ったのがこの店。創業七六年というおでんの老舗だ。 松山は、空襲で完全に焼け野原になった街。終戦直後には、伊予鉄・松山市駅の近辺にヤミ市が林立したが、撤去されたときにほとんどの人が廃業したとの…

仙台「炭焼牛たん おやま」

昨日行った「大衆酒場マイニチ」で居合わせたサラリーマンたちに教えてもらった、美味しい牛タン屋がここ。カウンターとテーブルが一つ、小上がりに二卓という小さな店だが、二階には座敷があり、宴会もできるらしい。メニューには「牛たん懐石」もある。 メ…

仙台「ガストロパブ クーパーズ」

伝統的なイギリスのパブは、料理がないか、あっても不味いというのが定評である。ところが比較的最近になって、うまい料理を売り物にする「ガストロパブ」と称するパブが、いろいろ登場してきた。これを真似たということなのか、日本でもこんなパブが登場し…

仙台「大衆酒場マイニチ」

二軒目は、最初に国分町近辺を物色した時から気になっていた、この店へ。定禅寺通沿いにあり、「全品300円」の貼り紙、そしてホッピーの貼り紙。仙台でホッピーが三〇〇円で飲めるとは……というわけで、入ってみる。店の前では、金のなさそうな若者のグループ…

仙台「じょじょや」

この日は、所用で仙台へ。当然ながら、夕刻から国分町方面に繰り出す。久しぶりなので、とりあえず国分町と稲荷小路を端から端まで歩いて店を物色したあと、「生殻カキ 2個290円」の看板があって、料理も期待できそうなこの店へ。あとで調べたところ、近くの…

福岡・天神「角屋」

久留米に一泊し、天神に戻ったのは昼過ぎ。連休前半の天神は、家族連れやカップル、若者たちで賑わっている。前回、天神に来たときにも寄った「ひょうたん寿司」で昼食をとった後、少し飲める場所を物色する。見つけたのが、この店。 一階と地階があり、地階…

久留米「樽平」

ホテルの近くまで帰ってきたものの、まだ九時過ぎ、宵の口(?)である。近くにどこかいい店はないものか。少し探すと、すぐにこの店がみつかった。店名は「樽平」である。「樽平」といえば、山形の名酒、そしてこの名酒を置く銀座の名居酒屋だが、この店はど…

久留米・新世界「とり和」

そろそろ酔いも回ってきたので、ホテルのある西鉄の駅の方向へ歩くことにする。心ひかれる小路や屋台を横目で見ながら数分歩くと、左手に何ともいえないオーラを放つ一角が表われた。間口の狭い店が密集する路地が、縦横に走るようすは、ちょうど新宿ゴール…

久留米「いち」

タイガースの店は、串三本とビール一杯だけで失礼する。たいへん居心地のいい店なのだが、何しろ初めて訪れる、しかももう一度来る機会があるかどうかも分からない土地である。他にもいろいろ見て回りたい。というわけで、三軒目は先ほどから本命と目をつけ…

久留米「田舎路」

二軒目に入ったのは、古い木造の平屋建て、間口が広く暖簾が横に長く広がる、何ともいえない佇まいのこのやきとり屋。カウンター九席のみの小さな店で、週末だというのに客がかなり入っており、談笑する声が外にまで聞こえている。 ちょっと予想外の店だった…

久留米「九十九」

せっかく福岡まで来たのだから、まっすぐ帰るのももったいない。幸いなことに、シルバーウィークだ。そこで、前から食べてみたいと思っていた久留米やきとりを求めて、天神からに私鉄に乗る。昼間は柳川まで行って川下りや散策で時間をつぶし、久留米に着い…