橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

青森「さんふり横丁」

classingkenji2010-06-02

次に向かったのは「さんふり横丁」。これは長屋形式の居酒屋街で、古くは栄えた料亭の跡地を利用して五年前に作られた。赤提灯が点ると、まるで昭和三〇年代の居酒屋街にタイムスリップしたような風情になる。ちなみに「さんふり」というのは津軽人気質を表わすという「えふり、あるふり、おべたふり」、あえて訳せば「良いふり、金のあるふり、知ってるふり」からとったものだとか。
とりわけ賑わっているのは「浜まち」。まだ宵の口なのに常連客で一杯だ。これというのも、津軽美人で話上手な女将の小倉加乃子さんを慕ってのことだろう。コの字型カウンター九席だけの小さな店だが、刺身・焼物・干物それぞれ数種類に、青森おでん、じゃっぱ汁、けの汁などメニューは豊富。地酒も一〇種類以上揃っている。あとから来た常連客が、店の前で席の空くのを待っている。ここは席を譲って、別の店に入ってみることにしよう。
斜め向かいにあったのが「奥津軽」。やはりコの字型カウンターだけの小さな店で、郷土料理がひととおり揃うが、珍しいのは馬の料理が多いこと。素材は太宰の生まれ育った金木町から仕入れ、馬刺、馬鍋はもちろんのこと、レバー刺、ホルモン煮込み、馬肉炒めなどを出す。「田酒」に代表される青森の地酒は、概して旨みと甘味が強く、馬肉に負けない力強さがあるから、組み合わせとしては理想的である。(2010.4.29)

青森市本町3丁目8-3