橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

青森「五事」

classingkenji2010-05-25

夕暮れ時に向かったのは、旧浜町の「五事」である。東京の青森料理店「なか村」の店主が、これ以上の店はないと教えてくれた。裏通りにさりげなく建っていて、引き戸を開けると招き猫が勢揃いしてお出迎え。右側にカウンター、奥にテーブル席がある。この店にはメニューがなく、五〇〇〇円からのコース料理のみ。居酒屋の範疇からはやや外れるが、出す料理は居酒屋料理の理想型といっていい。
付け出し三種は、コゴミのごま和え、シドケの酢物、そしてコノコ。いずれも青森市の名酒「田酒」の燗酒と相性がいい。お造り(写真)は、中央に透き通ったヤリイカ、その周りに赤貝、ツブ貝、北寄貝、平目の組み合わせで、彩り良く、黒釉の皿に見事に映える。さらに素晴らしかったのは、ホッケの団子と笹竹のすまし汁で、ちょっとクセのある二つの食材が互いを引き立てる。よそ者には到底思いつかない組み合わせだが、女将によると、かつては家庭でよく作られていた料理なのだという。
予約客が次々に入ってくるが、人通りの少ない場所のこと、教えられなければとても来ることはできなかっただろう。一軒でいろいろ料理を楽しみたいなら、この店に直行するのが良さそう。(2010.4.28)

青森市本町4-3-4
17:00〜23:00 日祝休