橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

久留米「田舎路」

classingkenji2009-10-05

二軒目に入ったのは、古い木造の平屋建て、間口が広く暖簾が横に長く広がる、何ともいえない佇まいのこのやきとり屋。カウンター九席のみの小さな店で、週末だというのに客がかなり入っており、談笑する声が外にまで聞こえている。
ちょっと予想外の店だった。やきとりは一〇種類ほどで、ホルモン煮込み、手羽先、山芋お好み焼きなど数種類の一品料理がある。酒はビール、酒、焼酎のみ。潔いシンプルなメニューで、これはこれで好ましい。予想外というのは、阪神タイガースファンの店だったこと。壁には所狭しとタイガースグッズが飾られ、店主と常連客がタイガースの話をしている。狭い店なのに、一家三人で切り盛りする。これで生活できるのかと心配になるが、本人たちは至って楽しそうだ。タイガースの店も、やっぱりやきとり屋だというところに、この町のやきとり文化の幅の広さが示されている。(2009.9.20)

久留米市日吉町14-18