橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

松山「たにた」

classingkenji2010-02-04

次に訪ねたのは、夏目漱石と縁のあるこの店。漱石は『坊っちゃん』にもある通り松山で二度住まいを変えたが、最後に落ち着いたのが、士族の家の離れ屋敷である「愚陀仏庵」。「たにた」は、この屋敷の庭だった場所に建っているのだ。
いちばんの自慢はオコゼの薄造りで、頭と肝を中心に、花びらのように並べられた白身は、形と厚みが見事に揃って美しい。合う酒を尋ねたところ、「大吟醸・吹毛剣」をすすめられた。
実は知る人ぞ知る名店で、佐々木久子(ご主人のお母さんの親友だったとか)や杉浦日向子にも愛されたというのに、ご主人はあくまで謙虚で「ただ古いだけの店なんですよ」とおっしゃる。余裕のない急ぎの旅なら、まずはここへ来るのが良さそう。(2010.1.18)

松山市二番町3-7-4
17:00〜23:00(ランチあり) 無休