橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

青森「新鮮市場」

classingkenji2010-05-28

翌日はまず、市場へ行ってみることにした。
青森には、ヤミ市から生まれた市場が二つある。駅前にあった市場団地は、海産物店を中心に一五〇店もがひしめく「青森の台所」だったが、一〇年ほど前に再開発で撤去され、「アウガ」というビルの地階に収容されてた。これが「新鮮市場」である。駅前通りに直結する階段を下り、ドアを開けると新鮮な魚の匂いに全身を包まれる。ほぼ正方形のフロアは、東西南北に路地が走り、売り場に木枠をかぶせただけの小さな店が建ち並ぶ。その数、およそ八〇店。地元で獲れる魚介類は何でも揃い、値段も安い。天井を見ずに歩いていると、ここがビルの中だということを忘れる。
その南側に、古川市場がある。こちらは古い木造の売り場がそのまま残り、魚や野菜、総菜などを売る市民向けの市場だ。地方都市の駅前は、とかく再開発して大きなビルを建て、きれいにしてしまう例が多い。青森はヤミ市時代の匂いを残す市場がほぼ原型のまま残る、数少ない例のひとつだろう。(2010.4.29)