橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

甲府「奈良田」

classingkenji2010-04-22

甲府の郊外に、同名の大きな老舗郷土料理店があるが、こちらはその親戚のママが一人で切り盛りする、カウンターだけの小さな店。馬刺しや馬煮込み、山菜などはいつでもあるが、季節によってキノコや猪など、珍しい地元の食材を使った料理を出してくれる。この日は、猪の内臓をニラレバ風に炒めたものをいただいた。カウンターの中の狭いスペースで、意外にもけっこう本格的な料理を作る。メインの酒は、一升瓶入りのワインで、客はたいていこれを飲んでいる。
地元の文化人やマスコミ関係者、県外から仕事で来た人などが集まっている。入りにくい店構えの上に、常連ばかりの狭い店だから気後れしがちだが、ママは気さくに話しかけてくれるだろう。物知りだから、地元のことで聞きたいことは何でも聞いてみるといい。場合によっては、他の客が教えてくれるかもしれない。珍しいものを出すだけに、勘定は安くはない。大衆酒場とは対極で、ママが一人で切り盛りする文化人バーの郷土料理版、といった雰囲気がある。(2010.3.24)

甲府市丸の内2丁目16-9