橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「あきの」

classingkenji2009-10-19

一年ほど前にできた日本料理店。V字状の角地にあって、以前は居酒屋だった場所だ。その居酒屋のイメージがあまりよくなかったせいで、跡地に入った店までも見くびっていて、これまで足を運ばなかった。それが、たまたま目にしたネットの評が悪くなかったので、行ってみることにする。
店の前に、コース料理のメニューが掲げられている。「十月の献立」とあり、全一〇品で五二〇〇円。ただし八寸が盛りだくさんなので、実際の料理の種類はかなり多い。前菜と椀物など一部省略した七品のコースは、三八〇〇円とのこと。
店内は、変則的な土地をうまく使っている。さほど費用をかけずに、品のいい和の雰囲気を出すために苦労したことがわかる。カウンター席と、テーブルがいくつか、そして狭い座敷。常連たちは、カウンターに陣取っているようだ。先付、前菜と軽い料理が続き、次の椀物は主役級の松茸と鱧の土瓶蒸し。出汁もよく、分厚い松茸は歯ごたえまで楽しめる。鯛、マグロ、イサキのお造り、小田原の「すみやき」という黒い地魚の塩焼きと続き、次は大きな皿に八品が盛られた八寸。これが実質的にはメインのような位置づけで、後はイトヨリの信州蒸し、里芋の揚げ煮、栗ご飯と続く。赤だしの出汁の味が素晴らしかった。天ぷらのような揚げ物を入れないのは、中高年の胃に優しい配慮といえる。酒は、焼酎と日本酒が一〇種くらいずつ。単品メニューもあり、だし巻き卵七〇〇円、このわた九〇〇円、牛ヒレタレ焼き一五〇〇円など。
主人は料亭の「金田中」で修行したとのこと。主人も若いが、さらに若い板前二人を従えて店を切り盛りする。板前が運んでくるので、料理の説明はきちんとしている。こういう実力のある若い料理人が、リーズナブルな価格設定で店を出してくれるのが、郊外住宅地の良さである。遠方はともかく、沿線の人なら行ってみる価値がある。場所は、経堂駅の北口に出て、ロータリーを左へ。大通りを左に行き、しばらく先から左に曲がって線路際へ行き、少し歩いたところ。(2009.10.4)

世田谷区経堂3-1-2 ヴェルデュール経堂1階
11:30〜14:00 17:30〜23:00 水休