橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

甲府「大黒ホルモン」

classingkenji2010-04-26

甲府を初めて訪れたのは、おそらく一七−八年前のことである。その後、山梨県の某団体から研究協力者を頼まれたことから、年に二回程度訪れるようになった。仕事は三年ほどで終わったが、煮貝と馬刺し、ほうとうのおいしさ、大衆酒場でワインを飲むという独特の文化、そして勝沼ワインの魅力に惹かれ、ほぼ毎年訪れるようになった。
地方へ行けば郷土料理を食べるというのは、自然の習わしである。だから、甲府でモツ焼やモツ煮込みを食べたことはあっても、それは郷土料理店で、馬モツや猪モツであることが多かった。東京にあるようなモツ焼中心の大衆酒場を見かけた記憶もない。
ところが今回、そんな店をいくつか見つけた。これまで見落としていたのか、それとも最近の傾向なのか。そんな店のうち二軒に入ってみたが、いずれも新しい店だった。以前は全くなかったというわけではないのかもしれないが、最近になって増えたのは確かだろう。最初に入った店は、若者で賑わっていて期待したのだが、焼きすぎの上に塩味がきつすぎ、ハズレ。二軒目に入ったのが、この店である。チェーン店らしいが、系列店はいずれも横浜、福岡、京都など遠方である。チェーン店といえば、大量仕入れやセントラルキッチンなどの関係上、一定地域に集中的に出店するというのがかつての常識だったと思うが、最近はこういうチェーンが増えている。
この店はけっこう気に入った。シロ、ハツ、レバなどの定番だけでなく、ノドブエ、フワ、シキンなどを揃え、味も良い。生ビール四二〇円、サワー類とハイボールが三九〇円、ホッピー四五〇円(中一九〇円、外二九〇円)など、酒の値段は標準的。甲府へ来たときに、モツ焼欲求に襲われたら、ここに来ることとしよう。正確な営業時間は分からないが、午後三時には開いていた。(2010.3.24)

甲府市丸の内1丁目2-13