橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

金沢「菊一」

classingkenji2009-01-09

金沢では「高砂」「赤玉」とならぶ、おでんの老舗。香林坊の交差点近く、109のそばにあり、場所はわかりやすい。L字型カウンターとテーブル二つほどの小さな店で、親父さんと女性が二人で切り盛りしている。おでんは、一〇〇円から六〇〇円まで。例外は一五〇〇円という季節ものの香箱蟹のおでんで、これはどういうものなのか見当がつかない。やや白濁した薄味の出汁で、よく煮込まれたおでんは、口に含むとほっとする滋味が広がる。老舗ならではの味である。一九三四年創業で、出汁は当時から受け継がれたものだとか。戦災を受けることのなかった古都ならではである。一品料理もいろいろあり、ゆっくり腰を落ち着けて飲むことができる。酒は、地元の「日栄」を、ちろりで燗してくれる。
市民に親しまれている店であることは、客層を見てもわかる。クリスマスイブでありながら、ほぼ満員で、しかも女性だけの客が多い。中年女性三人組は、おでんをつつきながら和やかに談笑し、三〇歳くらいの一人客は、静かに、コンスタントなピッチで燗酒を飲む。後から入ってきた中高年男性四人組は、テーブル席で早くも盛り上がっている。最初は入りにくいかもしれないが、意外に親しみやすい店である。(2008.12.24)

金沢市片町2-1-23 
17:00〜23:00 水休