橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

静岡・青葉横丁「おふみ」

classingkenji2010-07-05

二軒目は、青葉横丁へ。ここはもともと、繁華街を東西に横切る青葉通りあった屋台が移転して作られた横丁。飲食店街の成り立ちとしては、典型的なもののひとつといえる。狭い路地の両側に、静岡おでんを出す店が十数軒並んでいる。静岡おでんは、濃い汁で煮込み、仕上げに鰹節粉と青のりを混ぜたものをかけるのがしきたりで、種に牛すじ、豚もつ、黒はんぺんが入るのが普通。最近はけっこう有名になり、東京でも出す店がある。
この「おふみ」は、静岡大学にいた頃、ゼミの女子学生がバイトしていた、というよりコンパの二次会で連れて行ったら、その場でバイトすることが決まった店で、女将にその話をしたら、「あ、先生!」とすぐに思い出してくれた。聞くとその元女子学生は、東京に住んでいるというのに、出張のついでなどでときどき店にやってくるとか。女将も娘のようにかわいがっている。喜んだ(というより、久しぶりに電話してみたくなったのかも)女将は、その場で携帯に電話。眠そうな声で出てきた彼女も、私の意外な再訪を喜んでいた。
L字型カウンターのみで、一〇人も入れば一杯になる。この横丁の店はたいていそうだが、常連客でほぼ満員。土曜日の夜というのに、この賑わいはたいしたもの。横丁は、不況に強いビジネスモデルだということがよく分かる。(2010.6.12)

静岡市葵区常磐町1-8青葉横丁