橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

庚申塚「庚申酒場」

classingkenji2009-01-27

「おふく」を出て、都電荒川線の庚申塚方向へ。交差点の少し右側に、灯りがみえる。吉田類の「酒場放浪記」でも取り上げられたので、ご存じの方も多いはず。古い一軒家の暖簾をくぐると、L字型のカウンターだけの小さな店内。メインの料理は串焼きと煮込み、冬場のおでん。女将さんは炭を少しずつ動かして火力を調整しながら、ていねいに焼いてくれる。女将さんは戦災を経験した元・映画少女。客に話しかけ、空襲の被害や、敗戦直後に見た映画の話など聞かせてくれる。
東京大空襲は1945年3月10日だが、池袋から巣鴨にかけてのこの地域が空襲の被害にあったのは、4月13日のこと。東京大空襲を上回る2000トンの焼夷弾が投下され、70万人近くが罹災している。死者は、約2500人といわれる。巣鴨からこのあたりにかけての地蔵通りは、すべて焼け野原になったとのこと。近くには映画館がいくつかあり、敗戦のしばらく後から上映を開始。女将さんは池袋のロサ会館までヤミ市を歩いて通い、日本初のカラー映画「カルメン故郷に帰る」も封切りでみたとのこと。今度は、少し映画史を勉強してから話を聞きに行きたいものだ。あと何年営業できるか分からない、歴史遺産のような店。大切にしましょう。(2009.2.23)

豊島区巣鴨4-35-3
19:00〜 不定