橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

巣鴨「おふく」

classingkenji2009-01-26

今日は、大学で雑用。しばらく研究室を留守にしていたので、書類や郵便がたまりにたまっている。思いのほか手間取ってしまい、終わったときはもうすっかり真っ暗。その後、ふと思い立って巣鴨へ。以前、巣鴨に住んでいた知人のSさんから教えてもらったこの店へ行こうと思ったからである。
巣鴨は以前、都営三田線沿線に住んでいたときは、主要な乗換駅だった。しかし、お年寄りの町というイメージが強く、ここで飲んだことはあまり多くない。駅を出て右側へ進めば、飲食店街がある。心惹かれる店もあるにはあるのだが、今日は中山道を渡って旧中山道の地蔵通りへ。そのかなり先、都電の庚申塚の近くまで進んだところに、この店がある。店構えそのものは地味だが、店先に所狭しとメニューの短冊が貼られているところは、東武練馬の「春日」にちょっと似ている。店の中はけっこう広く、広い小上がりにテーブルがたくさん並んでいる。その他、カウンターに八席と、奥にテーブルがあり、全部で五〇人は入れそうだ。
まずは、生ビール(五五〇円)を注文。およそ居酒屋に普通にあるような料理は、何でも揃っていて、値段は四〇〇円から六五〇円が中心。鍋物は、鶏肉鍋二二〇〇円、はまぐり鍋二六〇〇円、たらちり鍋二九〇〇円など。壁に貼られたメニューのところどころに、食材のかわいい絵が描いてある。絵心のあるご主人なのだろう。メニューの字も、あくまで読みやすく均整のとれた達筆。こういう店に、ハズレはない。ビールを二杯いただいた後は、日本酒を注文。越乃寒梅など地酒も数種類(六〇〇円)あったが、今日は菊正の樽酒(四〇〇円)にする。旨さを誇示することなく、ほっとする味。マグロ納豆(六〇〇円)は、単品のマグロぶつ並みの量があり、いい相性だった。地元密着型のいい店なのだが、残念ながら客の入りがよくない。これも、不景気のせいか。それとも住民の高齢化のせいか。遅くまでやっている店なので、あるいは時間が早すぎたのかもしれないが。こういう店は、地域社会の重要な資源である。こんな店が消えてしまったなら、地域社会はその機能のかなりの部分を失うだろう。(2009.1.23)

豊島区巣鴨4-27-1
18:00〜3:30(日曜は2:30まで) 火休