橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

大塚「幸司忠」

classingkenji2009-01-28

庚申塚から都電荒川線で大塚へ。大塚には、「串駒」「江戸一」「きたやま」という三大名店がある。もともと有数の三業地で、池袋以上の繁華街だった歴史があるとはいえ、今ではかなり地味な存在であるこの町に、都内でも屈指の名店が三つもあるというのも、おもしろい。とはいえ、こうした名店はちょっと気構えていく場所であって、いい加減酔いが回った後の三軒目に行く場所ではない。そこで向かったのが、この店。店名は「こうじちゅう」と読む。実は、巣鴨「おふく」の姉妹店とのこと。
付け出しに出てきたのが、出回りはじめた菜の花の芥子和えと、ちくわにキュウリを詰めたもの。気が利いている。しっかり味のしみこんだ鰺の南蛮漬けも、おいしい。何よりよかったのは、馬の串焼き。これはタテガミと赤身を交互に刺したもので、たてがみは柔らかくとろけ、これを赤身といっしょに口に入れると、絶妙なハーモニーだ。日本酒は、銀盤、越の景虎、久保田、八海山、刈穂など(六五〇−八〇〇円)、焼酎も二〇種類ほど(五〇〇−七〇〇円)揃っている。瓶ビールはサッポロとアサヒがあって、中瓶五〇〇円、生は五五〇円。オジサン向け大衆酒場という外観とはうらはらに、女性中心の接客は印象が柔らかい。三大名店とは別の性質の店だが、地元の人、仕事の行き帰りに近くを通る人は、通う価値があると思う。(2009.1.23)

東京都豊島区北大塚2丁目28-7
17:00〜2:00 水休