橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

久留米・新世界「とり和」

classingkenji2009-10-07

そろそろ酔いも回ってきたので、ホテルのある西鉄の駅の方向へ歩くことにする。心ひかれる小路や屋台を横目で見ながら数分歩くと、左手に何ともいえないオーラを放つ一角が表われた。間口の狭い店が密集する路地が、縦横に走るようすは、ちょうど新宿ゴールデン街を三分の一ほどに縮めたような趣だ。露店の移転によって作られた一角であろうことは、容易に想像できる。土曜日のせいか、何軒かのスナックを除いて閉まっている店が大部分だが、路地の入り口あたりに一軒のやきとり屋が幟を立てていたので、入ってみることにする。
店の名は「とり和」という。常連客たちが囲むカウンターの内側には、さまざまな素材の串、そしてネギ巻、アスパラ巻、シメジ巻など、多彩な変わり串がある。カシラ、ホルモンなど食べ慣れたものを中心に何本かいただいたが、どれも丁寧に仕事をし、色よい焼き上がりである。
後で調べてみると、この飲食店街は「新世界」というらしい。金沢にも、ヤミ市起源の「新世界」という飲食店街がある。ヤミ市起源の飲食店街を新世界と呼ぶのは、同時多発的な発想だったのか、それとも大阪からの連想か。いつの日か、平日に訪れてみたいものである。(2009.9.20)