橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

2006-01-01から1年間の記事一覧

世田谷「酒の高橋」

原稿の書き出しが決まらないので、資料と紙束をカバンに入れ、自転車で「酒の高橋」へ。六時少し前だが、カウンターはほぽ満席、テーブル席は半分ほど埋まっていた。まずはサッポロ黒ラベルと刺身三点盛りを注文。お通しの小さく切ってくるりと丸めた秋刀魚…

「ポパイ」

すみだトリフォニーホールでコンサートを聴いたあと、JRで一駅の両国へ。駅から歩いて二分の所にある「ポパイ」は、各地の地ビールを樽生の状態で四〇種類も揃えるという、日本の地ビールの聖地とでもいうべき場所である。店主の青木さんは地ビール界では…

「萬屋松風」

『階級社会──現代日本の格差を問う』(講談社)の打ち上げで、池袋へ。相手は講談社の編集者二人。行き先は、ちょっと久しぶりになる「萬屋松風」である。 木の引き戸を開けて店内に入り、入り口近くの席をとる。この店は、飛騨高山の民家を模して作られたとの…

中野「四文屋」「魚の四文屋」

吉祥寺の名店、「いせや」が閉店するというので、見納めにと出かけたところ、店の前は長蛇の列。この様子では一時間は待たされるなと、写真だけ撮って退散し、JRでもと来た道を戻って中野へ。中野で飲むのは久しぶりだ。中野には名店「第二力酒造」がある…

「赤津加」

行ってきたわけではありません。思わぬところで看板をみました。 昨日テレビで放送された、映画「電車男」の最後、電車男とエルメスが秋葉原の街中で抱き合うシーンの背景に、看板が映ります。背景はかなりCG処理されているようなので、この居酒屋の良さを…

新刊のご案内

新著が出版されました。今回はちょっと肩の力を抜いて、青春映画や梶原一騎の劇画、都市論・東京論などにまでテーマを広げています。居酒屋についても論じたかったのですが、これは次の機会にしましょう。内容は次の通りです。 第1章 階級の死と再生 第2章 …

大衆酒場「酒の高橋」

禁酒明けには一日早いのだが、まあいいだろうというわけで自転車に乗って世田谷へ。ここでいう世田谷というのは、世田谷区世田谷。世田谷区の中心部で、世田谷区役所のある界隈のこと。私の自宅から自転車で十分少々のこのあたりは、東急世田谷線というほと…

日本酒場通史 『酒場の誕生』 

編者は、酒食についてのエッセイで知られ、長野県で農場とワイナリーも経営する玉村豊男。執筆陣は海野弘、森下賢一、枝川公一など。なんといっても、冒頭におかれた海野弘の「江戸の酒場繁昌記」が圧巻である。八世紀半ばにはすでに酒場らしきものがあった…

ノンフィクションとしての居酒屋論 『下町酒場巡礼』

著者は、大川渉、平岡海人、宮前栄の三人。一九九八年に正編が出版され、好評の故か二〇〇〇年に続編が出版された。現在は、文庫で入手することができる。紹介されたのは合計八十八店で、著者たちはこれを四国八十八ヵ所のお遍路になぞらえている。たしかに…

禁酒生活

一週間、禁酒することになりました。とうとう肝臓を痛めたのか?違います。内視鏡で大腸ポリープの切除をしたため、大事をとってのことです。これだけ禁酒すれば、あとは当分、休肝日を作らなくても大丈夫でしょう(笑)。 内視鏡でみた大腸は、極上のシロ(牛…

「養老乃瀧」練馬南口店

今日は、科学研究費を使った調査のための調査票の発送作業だった。一七〇〇通ほどの郵便を出し終え、練馬郵便局に受取人払い封筒の見本を提出して、今日の作業は終了。重労働のあとだから、当然、ビールで喉を潤したいところなのだが、まだ四時半。練馬とい…

郡山「正月荘」「味の串天」

現地調査で郡山に行ってきた。当然、仕事のあとは、郷土料理の店へ。宿泊した郡山ビューホテルのすぐそばの、正月荘である。最初はビール。メニューには書いてあるのに、サッポロビールがなかったのは残念。仕方がないので、キリンにする。そのあとは、郡山…

半蔵門「エリオ・ロカンダ・イタリアーナ」

居酒屋ではないが、たまにはいいだろう。イタリア人一家の経営する、イタリアンの店である。日本風、あるいは懐石風にアレンジされないイタリアそのままの味という評判で、ふだんはイタリア人客が多いらしい。場所柄、入りづらい高級店を想像していたが、さ…

自由が丘「金田」

名店との評価が高く、「金田酒学校」の異名をとる。もう十数年前から行ってみたいと思っていたのだが、今日ようやく、自由が丘の古書店に用事ができたついでに、立ち寄ることができた。白地に「金田」と名が小さく入った上品なのれんをくぐり、すりガラスの…

「日本橋紅とん」

日本橋に本店があるという焼きとんの店。以前から、焼きとんというからには、一度入ってみなければと思っていた。下高井戸駅前市場の奥の角地にあり、二方向に入り口があって入りやすい。外にも少しだけテーブルがあり、道路脇でも飲食できるようになってい…

下北沢「楽味」

集中講義の三日目は、根津の駅から小田急線直通に乗り、下北沢へ。地上はあいかわらず若者たちでごった返しているが、地下へ降りると別世界のような大人の空間。本格的な板前割烹の店として太田和彦も絶賛する、「楽味」である。 店はほぼ満員で、ちょうど出…

御徒町「スタンディング・コーナー」

集中講義の二日目、今日は少し歩いて御徒町へ行くことにする。一軒目は御徒町のガードそばにある「佐原屋」へ。ともかく安い店で、ビール大瓶が五〇〇円、料理は二〇〇円台が中心で、いちばん高いのがキスやメゴチなどの天ぷら五〇〇円。客は中年男性がほと…

根津「車屋」

七月の二五日、二六日、二八日と三日間、東大文学部で集中講義。東大も教育熱心になったもので、なんと授業時間が六限まである。予定では二限から六限までだったが、六限を時間割通りにやると、終了はなんと八時二〇分になる。こんな時間まで授業するわけに…

「おふろ」

下高井戸は、もともと甲州街道の最初の宿場町だった。日本橋からの距離がやや遠かったことから、後に内藤新宿が作られて二番目の宿場町となったが、その面影は下高井戸商店街とその周辺の賑わいにみることができる。私の家からは徒歩二〇分ほどで、自転車で…

代々木上原「笹吟」

今日行くのは、代々木上原の「笹吟」。太田和彦によると、多彩で上質の料理とともに数々の名酒を楽しむことができる、居酒屋のニューウェーブを代表する名店とのこと。場所柄もあり、私がふだん好んで通う大衆居酒屋とは一線を画する。一人ではなんだか入り…

斎藤酒場

だいぶ酔いが回ってきたが、ここまで来たら十条の斎藤酒場にも行かないわけにいくまい。というわけで、赤羽からJR線で一駅目の十条で降り、斎藤酒場へ。この店もいまや、東京を代表する居酒屋の一つとしてすっかり有名になった。創業は昭和三年で、店内には…

立ち飲み「いこい」

次は、東京一安い居酒屋である。まるよしの裏手あたりにある、立ち飲み屋「いこい」。店内は広く、厨房を囲む大きなコの字型カウンターと、その右側に十人くらいが飲める大テーブルがいくつか。客は立ったまま酒を飲み、肴に箸を伸ばす。いかほどかの金をカ…

大衆酒場「まるよし」

「まるます家」は一時間ほどで切り上げ、一番街の裏通りの居酒屋街を散歩してから、駅の方向へ戻り、東口斜め右向かいの「まるよし」へ。「大衆」と「酒場」の間に「まるよし(○の中に吉)」と染め抜かれた大のれんが真新しい。最近になって、作り直したのだろ…

鯉とうなぎの「まるます家」

千住と赤羽は、双子のような町である。いずれも東京23区の東北部に位置し、交通の要所。千住は日光街道の宿場町だが、赤羽の少し先の岩淵には、日光御成街道の宿場があった。将軍家専用の街道だったが、ふだんは一般の通行にも使われ、千住ほどではないもの…

「千住の永見」

もつ煮込みとぬたを肴にビール2本を飲んで、「大はし」を出る。次に向かったのは、やはり北千住駅西口から左に入る飲食店街の入り口近くにある「千住の永見」。知名度はさほどではないが、やはり北千住を代表する大衆酒場である。「大はし」のように行列こそ…

「大はし」

北千住駅から西口に出て大通りをしばらく歩くと、通りは南北に延びる商店街と交差する。この商店街は旧日光街道で、宿場町の雰囲気を色濃く残している。そして北側、つまり駅から行くと右に折れた方のサンロード商店街に「大はし」がある。北千住で最も知ら…

ガード下の「羅生門」

銀座のビアホールの次は、どこへ行こうか。一年ほど前までだったら、たいてい松屋通りの「山形の酒蔵」へ寄るところである。この店は松屋通りから横へ、路地とも呼べないほどの細い隙間から地下に降りたところにあった。引き戸を開けると、そこにはまるで、…

ビアホール「ライオン」

銀座七丁目にある銀座ライオンは、私のいちばん好きなビアホールである。菅原栄三の設計による、重厚でしかもリラックスできる内装、美しいモザイク壁画もさることながら、ビールの味がいい。おそらく、東京一といっていいだろう。ここへ来たら、まずは普通…

タイトル変更

ご覧のように、タイトルを変更しました(笑)。居酒屋考現学というのは面白すぎるテーマで、ときどき出すだけにしておくのはもったいないからです。フィールドワークの成果を、近いうちに掲載したいと思います。

足立区長の怒り

足立区は、私が学生時代の多くを過ごした場所であり、「大はし」「千住の永見」などいい大衆居酒屋が多いこともあって、いまでもときどき足を運んでいます。その足立区の区長の発言についての報道がありました。 「生活水準向上させる」下層社会報道に足立区…