橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

半蔵門「エリオ・ロカンダ・イタリアーナ」

classingkenji2006-08-27

居酒屋ではないが、たまにはいいだろう。イタリア人一家の経営する、イタリアンの店である。日本風、あるいは懐石風にアレンジされないイタリアそのままの味という評判で、ふだんはイタリア人客が多いらしい。場所柄、入りづらい高級店を想像していたが、さほどではない。常連客でもある知人に誘われて行ったので、メニューはいろいろわがままを聞いてもらった。あとで勘定をみてちょっとびっくりしたのだが、飲み物はかなりサービスされていたようだ。
ウェルカムドリンクに、まずスプマンテをいただく。チャームは、フレッシュチーズと生サラミ。次に、モエ・エ・シャンドンをいただきながら、前菜の牛肉のカルパッチョパルミジャーノのスライスがたっぷりかかった、和牛と思われるサシの入った肉は、意外にシャンパンと相性がいい。次は、数種類の貝が入ったガーリック味のパスタ。パスタは手打ちで、普通のものとほうれん草入りのものがミックスされている。イタリアの辛口の白と相性抜群である。メインは豚肉のグリルに、アンチョビーソースを細いノズルから縦横に載せたもので、中重口の赤ワインに合う。デザートはパッションフルーツのムースと、焼チョコレートケーキ。食後酒にいただいたリモンチェッロが素晴らしく美味しく、ラベルをデジカメで撮らせてもらう。そのあとグラッパを飲み、最後にリモンチェッロをもう一杯もらったので、少々飲み過ぎか。そもそもシャンパンも、大きめグラスの縁から二センチくらいのところまでサーブされ、通常の一・五倍くらいの分量があった。ランチとはいえ、これだけ飲み食いして一人六〇〇〇円とは安い。もっとも、大衆酒場に比べれば高いが(当たり前だ)。
イタリア料理は日本人の口に合うといわれる。これは私の持論だが、日本料理で生姜または山葵をニンニクに、醤油をオリーブオイルと塩に、味噌をトマトに、日本酒をワインに置き換えれば、イタリア料理になる。これは本当だ。たとえば、刺身、味噌煮込み、酒蒸しなどを考えてみればよい。日本酒との相性というのは、まだ研究したことがないが、やってみる価値はありそうだ。
土曜日なので、カップルや家族連れが目立つ。外人のグループ客も二組ほど。一人でテーブルに座り、ワインを一本飲んでいった男性客もいた。こんな飲み方のできる本格的なリストランテは、一軒くらい常連になっておきたいものである。おそらくこの店の本領は、煮込み料理にあるような気がする。涼しくなったら、また訪れてみよう。(2006.8.26訪問)