橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

足立区長の怒り

足立区は、私が学生時代の多くを過ごした場所であり、「大はし」「千住の永見」などいい大衆居酒屋が多いこともあって、いまでもときどき足を運んでいます。その足立区の区長の発言についての報道がありました。

「生活水準向上させる」下層社会報道に足立区長が反論
東京都足立区の鈴木恒年区長は13日、区議会定例会冒頭のあいさつで、同区を「下層社会」に関連づけて論じる報道などについて「理不尽で不当だ」と強い口調で反論した。
鈴木区長が問題にしたのは、月刊誌「文芸春秋」4月号に掲載された、ノンフィクション作家佐野眞一さんによる「ルポ 下層社会」など。この記事では、同区の小中学生の学用品や給食費に対する行政の援助率が高い実態や、学力テストの結果について触れ、同区を「格差社会に向けてしゃにむに進む日本社会の縮図」などと表現した。
鈴木区長は、この記事に対し「一面的な報道だ」として、「区民の生活水準を向上させる施策を推進してイメージを高め、理不尽で不当な報道や記事をはねのけていきたい」と述べた。
(読売新聞) - 6月14日0時23分更新

区長の怒りはよく分かります。足立区は家賃・物価とも安く、一部を除けば都心に出るのも便利で、住みやすい土地だと思います。しかし、問題は全社会的な経済格差・階級格差の拡大であり、区の施策の範囲を超えています。むしろ区長は、地域間格差が拡大して足立区を含む一部の地域に貧困が集中する現実を直視し、格差拡大に対する批判者たちとともに、政策の転換を政府に要求すべきでしょう。これを区政やイメージの問題に還元していては、結果的に、格差拡大傾向を容認することになるのではないでしょうか。「文藝春秋」の記事を読めば分かりますが、むしろ足立区の姿勢に好意的で、区長にもちゃんと取材しています。敵を間違えてはいけません。