橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「日本橋紅とん」

日本橋に本店があるという焼きとんの店。以前から、焼きとんというからには、一度入ってみなければと思っていた。下高井戸駅前市場の奥の角地にあり、二方向に入り口があって入りやすい。外にも少しだけテーブルがあり、道路脇でも飲食できるようになっている。値段は安く、やきとんは一二〇円均一で、他は煮込み三〇〇円、ニラレバ三八〇円など。飲み物ではホッピーがいい。セットで三八〇円、中一八〇円だから、五六〇円で二杯飲めることになる。黒ホッピーも同じ値段で、酎ハイ類は三〇〇円が中心。焼酎は寶焼酎だから、心配ない。ビールは、ヱビス生四八〇円、サッポロラガー中瓶四八〇円。最近、居酒屋でサッポロラガーを見かけることが多くなったような気がするが、喜ばしいことだ。
客は一一組一七人で、二〇代が六人、三〇代が二人、四〇代が五人、五〇代が四人。スーツにネクタイ姿は五〇代の二人組だけ。あとはドレスシャツが一人いるだけで、大部分がカジュアル系である。もっともお盆休みだから、今日は特別かもしれない。女性は七人とやや多く、しかも女性の二人客が二組いる。
スタッフには親方とか店長といった感じの人はおらず、若い男性ばかり。ちゃんと炭で焼いているのはいいのだが、焼方がいかにもバイトという雰囲気で、すぐにあちこち焦がしてしまう。肉はまあまあのものを使っているようなのに、もったいないことだ。注文もやや混乱していて、あとから入ってきた客に先に焼き物が届く。この店、都内に一〇店あり、直営が三店、フランチャイズが七店とのこと。屠畜場と直結した朝挽きのもつを使い、立地によって、一串六〇gで一五〇円の店と、四〇gで一二〇円の店があるらしい。しかし、焼方がこれでは問題外だろう。
近所には焼きとんの店が少ないので期待していたのだが、残念。しかし毎日同じバイトが焼いているとも限らないし、日を改めてもう一度行ってみることにしよう。(2006.8.18訪問)