橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

世田谷「酒の高橋」

classingkenji2006-10-08

原稿の書き出しが決まらないので、資料と紙束をカバンに入れ、自転車で「酒の高橋」へ。六時少し前だが、カウンターはほぽ満席、テーブル席は半分ほど埋まっていた。まずはサッポロ黒ラベルと刺身三点盛りを注文。お通しの小さく切ってくるりと丸めた秋刀魚は、一夜干しだろうか。美味い。今日の刺身は四点盛りで、秋刀魚、鯛、中トロ、甘海老。これで六〇〇円とは、たいへんお得である。居酒屋のざわめきのなかで左手にグラス、右手にペンを持つと、不思議に文章が浮かんでくる(笑)。何とか書き出しが形になりそうになったので、資料と紙はカバンにしまい、飲むことに専念する。
客はほとんどが五〇−六〇代の常連客。夫婦らしい客が二組いる他は、男性の一人客、二人客、そして四人組。後になって、親子らしい五〇代夫婦と二〇代女性の三人組が入ってきた。私より若そうなのは、この二〇代女性と、四人組の一人の三〇代男性だけ。隣に席を取った五〇代男性は、この店が初めての様子。居酒屋好きのインテリといった雰囲気で、時間をかけてメニューを眺め、何やらタックラベルにメモしていた。全員普段着だが、これは週末だからということではなく、いつも同じのような気がする。あまりに居心地が良いので、煮込みといっしょに金宮の一升瓶を注文。飲みに来るたびにホッピー二本として四杯、焼酎の量としては約二合、そうすると五回分か、などと考えながら飲んでいるうちに、だいぶ酔いが回ってくる。牛のすじ肉とシロを中心に他の部分も入っているらしい煮込みは、とても美味しかった。地の利を加味すれば、東京三大煮込みの一角に加えたいくらいだ。二時間弱ほどで勘定をしてもらう。一升瓶込みで五五五〇円。ボトル代が三二五〇円だから、残りは二三〇〇円か。申し訳ないような安さである。
これで私も常連に近づいたか。冬は鍋物が美味しいという。楽しみだ。(2006.10.7訪問)
今朝の読売朝刊に、書評が載った。山田昌弘の「新平等社会」と並んでトップの扱いである。評者は竹内洋氏で、さすがによく分かっていらっしゃる(笑)。これで、平積みにする書店も増えるだろうか。