大衆酒場「まるよし」
「まるます家」は一時間ほどで切り上げ、一番街の裏通りの居酒屋街を散歩してから、駅の方向へ戻り、東口斜め右向かいの「まるよし」へ。「大衆」と「酒場」の間に「まるよし(○の中に吉)」と染め抜かれた大のれんが真新しい。最近になって、作り直したのだろうか。店に入ると奥に長く続くコの字型カウンターがあり、右側には小上がりがあってテーブルが三つ。ここのメインはもつ焼きだが、炒め物や焼き魚なども出し、メニューは豊富。もつ焼きは八〇円で、他のメニューももろきゅう一三〇円など安いものが多い。五八〇円のビール大瓶(やはり、サッポロラガー)と串焼き四本ほどを頼み、二五人ほど座れるカウンターの客を中心に観察する。
全部で一七組、二三人。男性が二〇人と圧倒的に多く、女性は年長の男性と待ち合わせで現れた四〇代女性二人と、同年代の男友達と来ている二〇代女性一人だけ。男性のうち、一〇人がスーツにネクタイ姿である。ノーネクタイの二人も、単に暑いからはずしたようにみえ、これを含めれば一二人。いつの間にかこの店は、サラリーマン中心の店になってしまったようである。以前は、そうではなかった。この店については以前、次のように書いたことがある。
東京のはずれに、昼過ぎに店を開くやきとん屋がある。やきとんとは、豚の内臓類の串焼きである。値段は格安、しかも旨い。ここでビールグラスを傾けながら周囲の客の話に耳を傾けると、こんな話が聞こえてきたりする。
「いくらだった?」
「一万五千。」
「オレは一万三千だよ。」
「最近、二万越える仕事なんて、ないな。」
「いや、潜水の仕事ならあるよ。おっかないけどな。」
彼らは、日雇いのとび職であるらしい。数字はもちろん、日給である。日雇労働者としては、高給の部類だろう。しかし、仕事が毎日あるとは限らない。不況の今、仕事は激減しているはずだ。そして、体が唯一の頼みである。年を取ったり病気になったりすると、生活の保障はない。ホームレスになる場合もあろう。こうした日雇い男性の大部分は、独身である。キャリアウーマンの未婚化が進んでいるというが、その対極には、こうした男性たちがいるのだ。(「酒場からみた日本社会」『静大だより』第137号、1999年7月)
かつてこの店では、こうした日雇労働者たちが飲んでいることが多かった。今日の客はといえば、日雇労働者風に見えるのは四人だけである。彼らはどこへ行ったのか。不景気の波は、日雇労働者たちを直撃した。彼らの一部はドヤからダンボールハウスへと移動し、ホームレスとなっていった。赤羽に住んでいた労働者たちは、おそらくそれよりはやや上層に属していて、ふつうの賃貸住宅に住んでいるケースが多かったのではないかと思う。しかし収入が減り、少なくとも外で飲む余裕はなくなったのではないだろうか。酒場はこのように、社会の動きを敏感に反映する場所なのである。(2006.6.23訪問)