橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

郡山「正月荘」「味の串天」

classingkenji2006-08-30

現地調査で郡山に行ってきた。当然、仕事のあとは、郷土料理の店へ。宿泊した郡山ビューホテルのすぐそばの、正月荘である。最初はビール。メニューには書いてあるのに、サッポロビールがなかったのは残念。仕方がないので、キリンにする。そのあとは、郡山近辺の地酒を順番に注文しながら、郷土料理をいただく。三人だったので、いろいろ試すことができた。
最初は、名物の鯉の珍味盛り合わせ。南蛮漬け、内臓ごと擂って味噌とあえたもの、たまり漬けの三点で、いずれも酒に合う。鱧のように骨切りして、ふっくら焼き上げた蒲焼きは絶品。もし訪れることがあったら、これだけは食べるべきだ。会津名物の馬刺しは、たてがみ(店の人は背脂といっていた)と霜降りの盛り合わせで、たてがみは生姜醤油で、霜降りは添えられた唐辛子味噌で食べるようにとのこと。唐辛子味噌でというのは初めてだが、なかなかよろしい。さらに、伊達地鶏ささみのたたき、ヤーコン天ぷら、目光の唐揚げなど。どれも美味しかった。勘定は、三人でビール三本、日本酒三〇〇ml瓶一本、一合徳利三本を飲んで一四〇〇〇円ほどだったから、リーズナブルだろう。
二人はホテルに帰り、私だけ夜の郡山散策へ。実は行きたい店があった。郡山駅に近い「味の串天」という店である。木造の年季の入った店内は、テーブル席が六つほどとカウンター。メインの料理は焼きとんだが、刺身・焼き物などいろいろあり、壁は短冊で埋まっている。なんとホッピーがあり、しかもちゃんと冷えたものが氷なしで出てくる上に、黒ホッピーもある。ビールはサッポロ。カシラ塩とシロたれを焼いてもらったが、味は確か。そして、店内の日常とも異界ともいえる、その空気感。今どき東京でも珍しい、素晴らしい下町的大衆酒場である。明日の仕事に差し支えるので、早めにあとにしたが、今度来たときはじっくり一人で飲みたいものだ。(2006.8.28訪問)