橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

酒の本

「絶品!大人のB級グルメ 」

なぜか最近、ガード下や横丁酒場を扱った本や雑誌の出版が多い。その多くは、ヤミ市起源だ。時代はヤミ市を求めているのかもしれない。 これはCIRCUSという雑誌の増刊号で、タイトル通りカレー、とんかつ、ラーメン、オムライス、丼などの注目店を扱ったもの…

『食楽』2009年6月号

徳間書店のグルメ雑誌で、今月の特集は「焼鳥屋 焼とん屋」。去年も六月号で同じ特集をやっていたので、恒例なのかもしれない。銘柄鶏・銘柄豚を使ったり、ワインを取りそろえたりした高級店から、一本一〇〇円以下の大衆店まで、いろいろ紹介している。この…

太田和彦『シネマ大吟醸』

居酒屋めぐりが好きな者にとっては、神様みたいな存在になってしまった太田和彦だが、実は日本映画通でもあることはあまり知られていない。この本は、戦前の映画を中心に、一九五〇年代前半までの日本映画を論じたもの。居酒屋を論じるときの観察眼、そして…

『東京人』二〇〇九年五月号

この雑誌には毎号、巻頭に三人の筆者による随筆が掲載されているが、この号は私も執筆している。題して、「居酒屋からの警鐘」。ぜひ、ご笑覧を。今回の特集は「模型」で、都市模型や建物模型、古い町のジオラマなどが多数紹介されている。みたことのないも…

渡淳二監修・サッポロビール価値創造フロンティア研究所編「ビールの科学」

長い名前の研究所は、サッポロビールの商品開発を行なう研究所で、監修者は、その前所長。サッポロビールは業績が低迷して、サントリーにも抜かれてシェア四位のありさまだが、技術力には定評がある。ビールの歴史、種類、製造工程などについて解説した本は…

「古典酒場」最新刊

居酒屋ムック「古典酒場」の第六号が出た。表紙のデザインが変わったので、書店で探すときはご注意。今回のテーマは「山手線酒場」で、大崎、五反田、駒込、田端など、ふだん行かないような駅の近くの居酒屋がいろいろ紹介されている。必見は特集冒頭の「一…

佐藤和歌子『悶々ホルモン』

酒の本の出版が、あいかわらず多いが、先日も書いたように最近のトレンドは大衆酒場とB級グルメ路線。本書もそのひとつということになるが、書いたのは、一人で焼肉を食べに行くのを無上の喜びとする二八才の女性フリーライターというところがユニーク。その…

山縣基与志編『歌が聞こえてくる 東京ガード下酒場』

居酒屋本にも、トレンドがある。地酒ブームが始まったころは、地酒をいろいろ揃えたのがいい居酒屋だとされ、銘酒居酒屋の紹介が多かった。太田和彦氏が登場してからは、居心地の良さや伝統が重んじられるようになった。景気がよかった時期には、懐石風の良…

森下賢一『居酒屋礼讃』

かつて毎日新聞社から出版された単行本に、大幅加筆して文庫化された。原著は、今日では花盛りの各種居酒屋本の元祖とでもいうべきもので、私も大いに参考にさせていただいている。とくに、客の社会的構成を服装から読み解くという手法は、ここから着想を得…

坂崎重盛『東京煮込み横丁評判記』

著者は墨田区に生まれ、大学で造園学を専攻し、長年にわたって自治体で都市計画に携わった人物。退職後はエッセイストとなり、『TOKYO 老舗・古町・お忍び散歩』『東京本遊覧記』『東京読書』などの著書がある。当代一の、東京街歩きの達人といっていい。こ…

なぎら健壱『絶滅食堂で逢いましょう』

なぎら健壱が、古き時代の雰囲気を色濃く残し、いつ滅びるかわからない(ように思わせる)食堂・喫茶店・酒場を巡り歩くという、雑誌連載の単行本化。赤羽「まるます家」の女性店員たちがずらりと並んだ、表紙の写真が素晴らしい。奥には、なぎら健壱が何とも…

村上春樹『もし僕らのことばがウイスキーであったなら』

この夏、アイラ島へ行って、何カ所かのディスティラリーを見学してきた。もともとアイレイウイスキーは好きだったのだが、それ以来ますます好きになり、今では食後から寝るまでの間の酒は、たいがいウイスキーである。ロックでなめるように飲む。これまでは…

『東京銘酒肴酒場』(三栄書房・2008年・1200円)

居酒屋ムック『古典酒場』の、これまで発行された五冊の総集編ともいうべき居酒屋ガイドブック。ホッピーと酎ハイ、もつ焼きと煮込み系の下町大衆酒場を中心に、多数の店を紹介している。A4版と大きいので、開いて歩き回るには向かないが、飲みながら読む…

こゆるぎ次郎「GUINESS アイルランドが産んだ黒いビール」

日本人は、ピルスナー好きである。あの明るく透き通った黄金色のビールで、味は切れがよく軽快。黒ラベル、ヱビス、キリンラガー、一番絞り、モルツなどは、すべてピルスナータイプのビールである。(ちなみに、スーパードライは広い意味ではピルスナーの一種…

三軒茶屋・なかみち街

何日か家でおとなしく仕事をし、そのまま家で食事をしていたのだが、居酒屋欲求が抑えきれず、今日は三軒茶屋へ。行きたい店があったので、まずは「なかみち街」へ。行きたかった店というのは、ブラボー川上と藤木TDCの『続・東京裏路地〈懐〉食紀行』に…

新著発売中

新著『居酒屋ほろ酔い考現学』が発売になりました。 書店には、すでに並び始めているようです。 居酒屋好きの皆さん、そして東京論と格差社会論に関心のある皆さんにお読みいただけると幸いです。居酒屋ほろ酔い考現学作者: 橋本健二出版社/メーカー: 毎日新…

『居酒屋ほろ酔い考現学』(毎日新聞社)発売日決定

新著です。一部で、このブログの文章を流用していますが、ほとんどは書き下ろしです。六月三〇日発売予定ですが、二七日くらいから書店に並びはじめるでしょう。この表紙は、ラフスケッチ段階のもので、少し変わるかもしれません。目次は、以下の通り。予価…

「古典酒場・沿線酒場〈京成&世田谷線〉編」

第四弾が出ました。今回も、巻末の「居酒屋通ブログ五人衆よもやま話」で登場しています。テーマは「山の手酒場・下町酒場」。その他、五六頁にはホッピー酒場についても書いています。ご笑覧を。リンクは上がAmazon、下が楽天です。 さっそくで恐縮ですが、…

「酒とつまみ第10号」「モツ煮狂い第二集」発売記念イベント

雑誌「酒とつまみ」とは、知る人ぞ知る全編酒の話だけという雑誌で、別のブログで紹介したことがある。「モツ煮狂い」については以前このブログで、入手できる場所についての情報を募集したところ複数の方からご助言を戴き、ある図書館で閲覧することができ…

山本淳子さん サントリー学芸賞を受賞

山本淳子さんの『源氏物語の時代』については、4月18日に紹介した。文学史・宮廷史の書ながら、宮廷の住人たちの飲みっぷりや酔態について多くの言及があり、酒呑みとしても見逃せない内容である。この本で山本さんがサントリー学芸賞を受賞されることになっ…

『TOKIO古典酒場 闇市・横丁編』

第三弾がでました。今回は闇市・横丁の特集で、品川、新宿、赤羽、吉祥寺などの居酒屋が登場。私は今回も、居酒屋対談で登場しています。今回は対談者が五人に増え、それだけ話題も豊富に。さらにもう一カ所、「ホッピー酒場の南限・北限を探る旅」にも、「…

『TOKIO古典酒場 闇市・横丁編』発売イベント

先日、早稲田でヤミ市酒場についての座談会をやったが、その記録を含む『TOKIO古典酒場』第三弾が、11月29日に発売される。発売にあたって、都内のいつかの書店でフェアが開催されるので、お近くにお勤めの方または飲みに行く方は、ぜひご参加を。30日の新橋…

ありがとうございました。

複数の方から「モツ煮狂い」についての情報をいただきました。実物を入手することはできませんでしたが、都内のある図書館に所蔵されているとの情報をいただき、早速閲覧してきました。情報をいただいた方々、ありがとうございます。また今回、同好の熱心な…

引き続き求む『モツ煮狂い』

よろしくお願いします。なにしろ巻頭の文章が「モツ煮の歴史と荷風の見た東京」とか。これは読まないわけにはいきません。情報、あるいは「手元にあるので譲ってやってもいい/しばらく貸してやってもいい」というお申し出をお願いします。

求む『モツ煮狂い』

先日からクドウヒロミという人が執筆・制作した『モツ煮狂い』という小冊子を探している。モツ煮を通じて東京の都市文化・地域文化を論じたものらしく、ぜひ読みたいのだが、一般の書店にはなく、以前は置いていたらしい書肆アクセス、新宿・模索社、中野・…

酒とつまみ編集部編『酔客万来』(酒とつまみ社・2007年・1600円)

高田渡つながりで一冊。「酒とつまみ」という雑誌については、別のブログで紹介したことがある。全編酒の話だけという雑誌で、「中央線で行く東京横断ホッピーマラソン」「7時間耐久立ち飲みマラソン」など奇想天外な特集をやっている。本書は、この雑誌に連…

鄭銀淑『マッコルリの旅』(東洋経済新報社・2007年・1800円)

韓国の各地を旅しながら、その土地の大衆酒場で、家庭料理と郷土料理をいただきながらマッコルリを飲む。そんな本である。写真も、雰囲気を良く伝えている。市販のマッコルリも数多く紹介されていて、買うときの参考にもなる。私はこれを読んで、さっそく「…

「TOKIO古典酒場・昭和下町和み酒編」

四月に出た第一号に続き、第二号である。今回は下町酒場の飲み物、焼酎ハイボール、ホッピー、デンキブラン、ホイスの店を中心に紹介する。ちまたにあふれている居酒屋本の中には、足(と肝臓)で新たな店を開拓しようという意欲もなく、すでに広く知られた店…

貝原浩『世界手づくり酒宝典』(農山漁村文化協会・1998年・1400円)

貝原浩は、天才だった。とくに、人の顔を描くのが巧かった。いつも墨と筆の入った筒を持ち歩いていて、興が乗ればどこでも人の似顔絵を描いた。居酒屋で飲んでいても、カレンダーの裏や本の見開きにさっと描いて見せた。あれだけの実績を持つ画家であるにも…

吉田類『酒場のオキテ』(青春出版社・2007年・552円)

忙しくて、飲みに行けない。それで今日も、酒の本です。 酒場詩人として知られる吉田類さんの新著。タイトルにはあまり意味がない。前半は、浅草、下町、都心、新宿・中央線と都内各所の酒場街を概観していく。歴史や人情を織り込みながらの語り口はさすがだ…