橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

貝原浩『世界手づくり酒宝典』(農山漁村文化協会・1998年・1400円)

貝原浩は、天才だった。とくに、人の顔を描くのが巧かった。いつも墨と筆の入った筒を持ち歩いていて、興が乗ればどこでも人の似顔絵を描いた。居酒屋で飲んでいても、カレンダーの裏や本の見開きにさっと描いて見せた。あれだけの実績を持つ画家であるにもかかわらず、経済的には恵まれなかったようだ。この国は、ごく一部の人気タレントを除けば、芸術家に冷たい。五八歳の若さで、ガンで亡くなった。
彼は酒が好きだった。左翼系・反体制の本の挿絵で広く知られているが、酒に関する本も二冊ある。これは、その一冊。まだ出合う前、知人を通していただいたもので、自筆のサインと絵が入っている。全国各地、そしてアジア各地の自家製酒が紹介されている。これを読むと、自家醸造というものが人類共通のすばらしい文化であることがよく分かる。絵が、また良い。味があり、酒造りの工程が手に取るようによく分かる。酒造りをする人々の表情に、清々しい生活感がある。マッコリづくりには、ぜひ挑戦してみたい。そして自家醸造酒を飲みながら、国民から酒税を搾り取るために自家醸造を禁止するという暴挙が行われているこの国を変えるにはどうしたらいいか、考えてみたい。

図解文集 世界手づくり酒宝典

図解文集 世界手づくり酒宝典