橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「会社物語」(市川準監督・1988年)

classingkenji2007-07-23

主演はハナ肇クレージーキャッツのメンバーが、それぞれ定年近くのサラリーマンという役柄で登場する。登場人物の名前も、ハナ肇は花岡始、植木等は上木原等、谷啓は谷山啓といった具合。
丸ビルに勤めるハナ肇は、さえないサラリーマン。同期の連中が、それぞれ役員になったり、定年後に関連会社の役員になることが決まっていたり、新たに会社を始めることになっていたりする中、課長止まりで退職後の予定もない。部下たちも、送別会に乗り気でなく、雰囲気を察したハナは、送別会は遠慮する旨の文書を配ったりする。唯一気を遣ってくれるのは、新入社員の西山由美で、彼女は二人だけの送別会を六本木のアマンドで開いてくれるのだった。
そんなある日、若い頃にジャズをやっていた社員で集まって、ジャズバンドを結成しようという話が持ち上がる。メンバーはもちろん、クレージーキャッツの面々。そして結成披露の後で立ち寄るのが、ここ有楽町のガード下の焼き鳥屋「登運とん」である。撮影されたのは二〇年近く前。私がこの店を初めて知ったのもこのころだと思うが、今とまったく変わらない。面々は、ジャズについての思い出話に花を咲かせるのだが、この部分は演技というより、本物の思い出話だろう。その後はバーに場所を変えるが、話は尽きない。酔って銀座を歩きながら「今の日本は俺たちが作ったんだぞ」と大声で叫ぶ植木等。これは彼のサラリーマン喜劇の続きであり、結末でもあるわけだ。ラスト近く、ハナ肇のドラムのソロ演奏は見事の一語に尽きる。DVDは出ていないようだ。