橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

なぎら健壱『絶滅食堂で逢いましょう』

なぎら健壱が、古き時代の雰囲気を色濃く残し、いつ滅びるかわからない(ように思わせる)食堂・喫茶店・酒場を巡り歩くという、雑誌連載の単行本化。赤羽「まるます家」の女性店員たちがずらりと並んだ、表紙の写真が素晴らしい。奥には、なぎら健壱が何ともいえない笑顔を見せている。
昼間に大衆食堂を巡り歩きビールを飲むというのは、自由業の特権で、なかなか真似ができない。ヒマになってらやってみたいものである。吉原の「桜なべ 中江」、森下の「はやふね食堂」は、ぜひ行ってみたい。
かつては日雇い労働者でいっぱいだった新宿の「食堂長野屋」のおかみは、「バブルがはじけたら、みんなホームレスになっちゃった」という。歴史のある安くていい店がなくなってしまう一因は、ここにある。私の老後まで、健在でいてほしいものである。