佐藤和歌子『悶々ホルモン』
酒の本の出版が、あいかわらず多いが、先日も書いたように最近のトレンドは大衆酒場とB級グルメ路線。本書もそのひとつということになるが、書いたのは、一人で焼肉を食べに行くのを無上の喜びとする二八才の女性フリーライターというところがユニーク。その原点の一つは、リクルートスーツを着て就職活動をしていた五年前、浜松町の「秋田屋」の前を通りかかって「私もオヤジになりたい」と思ったことだというから、本物だ。馬の内臓を食べさせるワインダイニングや、ホルモン懐石の店なども登場するが、大部分はオヤジ系のもつ焼きとホルモン焼の店で、内容の濃いこと濃いこと。敬服である。行ったことのない店も多く、まだまだ不勉強と反省する。風邪をひいて寝込んだ日に、非常食用のモツ煮缶、レトルト牛スジを食べて燗酒を飲むなど、ちょっと心が温まるお話も。
実家に帰ったとき、ふと思う。娘が立ち飲み屋で一本八〇円の焼きとんを食べてると知ったら、母親は泣くだろうか。孫の顔がどうこうよりも、そっちの方がもっと根本的に申し訳ない、と。いえいえ、あなたのやっていることは、日本社会のジェンダー秩序を変えるという大きな事業なのです。居酒屋業界のためにも、どんどん広めていってください。でも女だけの場所だってあるんだから、オヤジだけの場所も、少しは残しといてね。
- 作者: 佐藤和歌子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/12/18
- メディア: 単行本
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