橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「絶品!大人のB級グルメ 」

なぜか最近、ガード下や横丁酒場を扱った本や雑誌の出版が多い。その多くは、ヤミ市起源だ。時代はヤミ市を求めているのかもしれない。
これはCIRCUSという雑誌の増刊号で、タイトル通りカレー、とんかつ、ラーメン、オムライス、丼などの注目店を扱ったものなのだが、終わりの方に十数ページを使って「裏路地酒場、横丁入門」という特集がある。取り上げられているのは、思い出横丁、ハモニカ横丁西荻窪の柳小路、赤羽OK横丁、大井町の東小路、品川港南口の裏路地。いずれも劣らぬディープなヤミ市飲み屋街である。しかもこの記事は「闇市」を前面に出している。「戦後の闇市の面影を残す裏路地酒場で、今宵はくいっと酒を飲もう」という具合である。一九六〇年代と七〇年代の新宿西口付近の写真まであり、ファンにはこたえられない。六〇〇円と安いのもいい。