橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

酒の本

大橋隆『下町讃歌』

著者とは、近所の銭湯風カフェ「さばのゆ」で会った。その場で奨められて買ったのが、この本。帯に「京都生まれが東京の下町を好きになるとは珍しく、新鮮。しかも下町の魅力は居酒屋と銭湯にありというのだから、うれしいではないか」と、川本三郎の推薦文…

土屋守「シングルモルトウイスキー大全」

日本が世界に誇るウイスキー評論家・土屋守さんが、長年の蘊蓄を集大成したのが、この一冊。二〇〇九年九月時点で操業中あるいはボトル入手可能な、世界一四一蒸留所のシングルモルトウイスキーを、詳細なテイスティングノート付きで紹介している。当然なが…

「TOKYO大衆酒場」

青森の途中だが、ここで本の紹介を。KKベストセラーズの雑誌CIRCUSの増刊号として企画された、居酒屋ムックである。店のセレクトが良い。東京全域から厳選された店ばかりで、この種の本の良いところばかり詰め込んだ感がある。 「人情酒場の愉しみ方」という…

藤原ヒロユキ「本当にうまいビール215」

日本で飲まれているビールのほとんどは、大手四社のメイン商品に代表される、ビルスナータイプ、そしてその変形としてのドライ系ビールである。ビールはとても多様な飲み物なのだが、多くの日本人は、そのごく一部しか知らない。世界の多様なビールも多数輸…

浜田信郎『東京飲み歩き手帳』

ご存じ、居酒屋ブログ界のエース、浜田さんの単著。人気の居酒屋へ行こうとして、満員で入れなかったときなど、「その酒場の近くにある他の酒場をサッと調べることができる手帳があったら」という願いを、自分自身で実現しようとまとめた本とのこと。なるほ…

朝日新聞「ゼロ年代の50冊」

なぜか、拙著『「格差」の戦後史』が選ばれました。悪い本ではないと思いますが、一〇年間のベスト50冊に入るようなものかどうか。まあ、ここは率直に喜んでおくことにしましょう。ちなみに一位は、ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』だそうです…

西川治『世界ぐるっとほろ酔い紀行』

著者はグルメで知られる写真家で、料理に関する著作が多いが、本書は世界中で酒を飲み歩いた記録をまとめたもの。酒については、私もかなりの数の本を読んできたし、実際に飲んでもきたので、既知のことも多いのだが、やはり実際に世界中へ足を運んだ人は違…

『嗜み』2010年春号

ご存じの方は多くないかもしれませんが、日本ペンクラブの編集協力で、文藝春秋が出している雑誌です。文学関係の記事が中心で、平岩弓枝、村山由佳、浅野温子(時代小説が大好きだとか)のインタビュー、阿刀田高、岡田斗司夫などの書斎訪問、立川志らく・田…

浜田信郎監修『もつマニア』

おなじみ浜田信郎さん監修で、多くの居酒屋通が協力し、出版社の編集者やライターの取材も加えて、もつ居酒屋専門のガイドブックが堂々完成。巻末の地図を除きオールカラーで、写真満載の一九一ページ。これを片手に都内を回れば、もつ居酒屋通になれること…

山同敦子『至福の本格焼酎・極楽の泡盛』『愛と情熱の日本酒』

昨日紹介した飲み会でお会いした、山同敦子さんの著書を二冊。 一冊目は、二〇〇二年に出版され、「村尾」「宝山」「佐藤」、そして黒木酒造の「百年の孤独」「山ねこ」をはじめとする一連の銘柄など、今日では広く知られている本格焼酎の数々をいち早く紹介…

古賀邦正『ウイスキーの科学』

講談社の科学系新書・ブルーバックスの一冊。以前、同じシリーズの『ビールの科学』を紹介したことがあるが、これはサッポロビールの人が書いたものだった。こちらはサントリーの研究企画部長などを歴任した著者によるもので、ブレンドウイスキーの「響」を…

太田和彦『ひとり旅ひとり酒』

太田和彦の最新著。『西の旅』という旅行雑誌での連載をまとめたとのことで、金沢、境港、和歌山、広島、松江、長崎、高知など、西日本の地方都市を飲み歩くという趣向。編集者とカメラマンが同行しているはずだから、ひとり旅というのはちょっと違うと思う…

川本三郎『きのふの東京、けふの東京』

『東京人』、『荷風!』、『東京新聞』。これは東京論三大メディアともいうべきもので、私はいずれも愛読している。この三つに共通の常連著者、というより看板著者の一人が、わが敬愛する川本三郎。川本には多数の著作があるが、本書はそのなかでも出色とい…

古典酒場責任編集『つまみで選ぶ、今夜のうまい店』

ムック『古典酒場』の総集編的な企画だが、今回は料理に焦点を当てての編集。全体が、やきとん・やきとり、煮込み、おでん・なべ、さかな、いろいろ、個性派、と分けられている。巻末には、例の居酒屋ブロガー座談会の三回分をつなげ、未掲載分も含めてまと…

阿部健『どぶろくと女』

著者は酒のマーケティングと酒文化の普及に、長年携わってきた人物。その経験と蓄積に加え、退職後の十数年を費やして資料・文献を渉猟し、まとめたのが本書である。全六二九ページ、目次だけでも一二ページという大冊だ。 記述は縄文期に始まり、万葉の時代…

友里征耶『グルメの嘘』

著者は「激辛」グルメライターとして知られる人物。批判された料理店関係者が大勢で自宅に乗り込んできたり、家族への危害をほのめかして脅迫されたりしたこともあるという。その激辛ぶりは、「友里征耶の行っていい店わるい店」で知ることができる。とくに…

橋本直樹『ビール・イノベーション』

著者は、キリンビールで開発研究所長、ビール工場長を歴任した人物。それだけに、ビール醸造の科学的側面について知り尽くしているのは当然だが、ビールの歴史やビール文化についての知識も相当なもので、実は本書も、半分以上は古代オリエントから始まるビ…

太田和彦『東京 大人の居酒屋』

太田和彦の居酒屋本といえば、執拗なまでにメニューを書き写したデータ完備のガイドブックと、紀行文風のエッセイ集が思い浮かぶが、本書はやや趣が違う。 取り上げられた五五店は、すべて右側に文章、左側に写真という二ページ構成でまとめられている。写真…

『おとなの週末』11月号

雑誌に料理の写真を載せる場合、原則は原寸大で、必要に応じて料理の魅力が伝わる範囲で縮小する、というのが基本だろう。かつて文藝春秋から、原寸大を売り物にしたラーメン本や寿司の本が出ていたことがあるが、それぞれの店の看板メニューの魅力をよく伝…

『古典酒場』Vol.8

このムックも、もう8号になった。今回のお題は「日本酒酒場」である。「吉本」「鍵屋」「伊勢藤」「串駒」などの有名店も揃えているが、「立呑屋」「清瀧」それにカップ酒の店と、大衆的な店もカバーしている。後ろの方には、連載のブロガー座談会もあり、私…

端田晶『とりあえず、ビール!』

先日読んだ『もっと美味しくビールが飲みたい!』の続編が、これ。今年七月の刊行である。軽妙で飾らない文章、嫌みのない博識は、ますます快調だ。印象に残った話題をいくつか紹介しよう。 太宰治に「禁酒の心」という短編があるとは知らなかった。酒が配給…

味平龍之尉『みひらん 東京下町沿線編』

「食農健レポート」という飲食店ブログを運営している著者が、ブログの内容を中心にまとめたもの。もつ焼き屋、ホルモン焼肉屋、居酒屋・小料理屋、食堂・洋食・ステーキ屋、立ち飲み、中華料理、その他、という七部構成だが、もつ焼き屋から居酒屋までの比…

吉田類『東京立ち飲み案内』

ご存じ、吉田類さんの最新立ち飲み案内である。全七十二軒を厳選。和風中心の伝統的スタイルと、これにモダンを加味した変形が大部分を占めるが、南欧風のバル、ビストロ、ワインバーなども。老舗もあれば、最近できた店もある。系列店や類似の店も含めれば…

端田晶「もっと美味しくビールが飲みたい!」

著者は、恵比寿ガーデンプレイスにある恵比寿麦酒記念館の元館長で、現在はサッポロビールCSR部長。ビールに関する豊富なうんちくの持ち主で、以前、『小心者の小ジョッキ』という著書を紹介したことがある。もともとは三井グループのグループ内広報誌である…

藤木TDC/イシワタフミアキ『昭和幻景』

文を担当している藤木は、『東京裏路地“懐”食紀行』などの著書があり、ヤミ市起源の飲食店街を精力的に取材していることで知られる異色のライターである。これまでの著書は、「食」に重きをおいていて、戦争直後の雰囲気をとどめる建物そのものには、あまり…

『おとなの週末』9月号・B級グルメ特集

「B級グルメ」がブームになったのは、もう二〇年ほど前のことだが、この不況でブーム再燃ということだろうか。出版や雑誌の特集が相次いでいる。とくにこの『おとなの週末』という雑誌など、しつこいほど繰り返し特集を組んでいるが、今回は大衆酒場の比重…

『古典酒場』VOL.7 新橋特集

最新号です。今回は、スケジュールが合わずに「居酒屋通ブログ○人衆」の座談会はお休みしましたが、そのかわりに「新橋ヒストリー」という小文を書いています。ご笑覧を。古典酒場 Vol.7 -呑兵衛パラダイス新橋-(SAN-EI MOOK)出版社/メーカー: 三栄書房発売…

ラズウェル細木『酒のほそ道』第24巻

これは毎回というわけではなく、ときどき買っている酒と肴のマンガ。居酒屋で旬のものを食べる、初詣やハロウィーンなどの年中行事、ワインオープナーや箸袋など酒に関する小物のお話など、ストーリーにはいくつかのパターンがあって、けっこうバリエーショ…

鈴木琢磨『今夜も赤ちょうちん』

毎日新聞の名物記者、鈴木琢磨の名コラム「今夜も赤ちょうちん」が、ついに単行本になった。版元は、なぜか毎日新聞社ではなく、あまり聞いたことのない出版社。毎日新聞夕刊での連載は約一五〇回だったが、精選して七八本、これに「呑んべえ列伝」と題して…

食楽責任編集『厳選!旨い居酒屋250店』

雑誌『食楽』の別冊で、創刊からの4年間に取材した居酒屋を厳選して集めたもの。正統派の居酒屋料理を出す風格ある居酒屋を中心に、郷土料理系、海鮮料理系、銘酒系などを加えたラインナップで、全体にグレードはやや高め。その意味では『古典酒場』などとは…